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violet snow*-03 ページ25

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 現れた女性は花のような女性(ひと)だった。伏目がちな瞳は海を映し、微笑むその姿は花を思わせるそんな春の木漏れ日のような。


彼女が去り、ふと名を訪ねることを忘れていたことに気付く。
中佐であることは彼女の制服から見て取れた情報。ヴァイオレットは彼女を知らなかった。




「ヴァイオレット」


「………」



字や文法の練習も兼ねて、毎日報告書を提出することになっていたことを思い出し、彼女と別れてからの時は日常へと帰った。

それはあのひとときがまるで、夢のようでいて幻想であったかのような。
なんとも表現し難い心地。
悪い気はしないが、どこか胸の奥がくすぐったいような。そんな心持ちか。



その日のことを。


心のまま感じたことを。




ただなんともなしに書き連ね、"報告書"として少佐へと提出したのがつい先程のこと。




「ヴァイオレット…?」

「……っ、申し訳ありません。失念してました」



依然報告書のような書式を見つつもその用紙へと込められた内容からは彼女の変化を。
それは彼だからこそ感じ取ることができる変化。

内容は至極単純。


それは、目を通せば数分かからずして読み終えてしまうほどのものだった。






本日、陸軍省の近傍にて中佐と対面。

いくらかの会話を交わした後、訓練へと向かう中佐を見送る。


中佐から教わり覚えるよう指示された言葉について検討。


結果、その言葉を説明することは難しくその場で沈黙。



明確な答えに辿り着けず、ありのまま思ったことを記録。


思い出されたのは少佐と出会い過ごした日々。
庭に咲くヴァイオレット。
少佐の瞳。


その時に感じられた、胸の奥がくすぐったくなるような感覚。



それが恐らく、中佐が仰る"お言葉"なのだろうと解釈。



以上。






「この中佐に教えられた言葉が何か。聞いてもいいか」


「"慈しむ"…です」



そんなどこか心細そうに揺れる瞳に笑みがこぼれる。

どんなにか細い声だったとしても、きっとこの先、彼女の口からその言葉を聞くことができたことを忘れることはないだろう。


それ程に、嬉しく心が温まる。



「そうか」



そっと彼女の髪を撫で、心地よさそうに細める。
そんなある冬のひととき。


春の木漏れ日を思わせるあの人の名は知らない。



そんな彼女はヴァイオレットの内でこう息衝くのだ。





"慈しむを教えてくれた人"、と。

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(プロフ) - ユキさん» 初めまして、コメントいただきありがとうございます。少しでも作品の素晴らしさをお伝えできるよう今後とも頑張らせていただきますので、どうぞよろしくお願い致します。 (2021年10月31日 11時) (レス) id: ab18fde111 (このIDを非表示/違反報告)
ユキ(プロフ) - 初めまして。素敵なお話をありがとうございます! (2021年10月30日 13時) (レス) id: fb083d1d07 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - 小桜さん» そんなそんな。こちらこそお待ちいただけるということ程、本当に心強いことはなくて。こちらこそ、本当にありがとうございます。 (2020年12月27日 20時) (レス) id: ab18fde111 (このIDを非表示/違反報告)
小桜 - 更新ありがとうございます!本当に素敵な作品です!これからも更新待っています!! (2020年12月27日 9時) (レス) id: 67fd5c2fc4 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - れいさん» 初めまして。あたたかいコメントいただき私も胸がいっぱいです。お手に取っていただき、そして素敵なお言葉をかけてくださり心から感謝を。引き続きお楽しみいただけるよう精一杯頑張らせていただきます。コメントいただきありがとうございました! (2020年12月27日 9時) (レス) id: 83bbd53189 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名: | 作者ホームページ:なし。  
作成日時:2020年10月13日 21時

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