ピエロの涙8

episode359 ページ9

＊



いつもいつも、
どこか痛くて
穴が空いてるようで
冷たくて、淋しくて
隙間風が通り抜けるような
からっぽな気持ちが拭えない心が
何故かどうしようもなく
今だけは、あたたかくて
目が覚めた。

うっすらと目を開けると
あたたかく、柔らかで真っ白な朝の光が
ゆるゆると優しく空気中を揺蕩っていた。
だんだん目が慣れてきて、ぱちりと目を開けるとそこには
あどけない、寝顔があって。


やっと状況を理解してくる。
あれ、俺は確か夜中に外に出て
Aもついてきて
俺はAの前で泣いてしまって……


深夜だったせいもあるだろうが
自分の記憶にイマイチ自信が持てない。
大人になって酒を飲んだらまさにこんな感覚なんだろうか。
ゆっくり丁寧に記憶をなぞって、ぼんやりとしていた記憶の輪郭が鮮明になってきたところで
美味しそうな良い香りが鼻腔をくすぐる。


「なかじん、それ焼けたー？」

「うん、お皿取ってほしいー」


軽快な包丁の音はどっちがさせているのだろう。
彩織ちゃんはどうしても料理をしているイメージがあまりないからなかじんだろうか。
手早く食材が切れていく音。
香ばしく何かが焼けていく音。

そんな音を聞き流しながら目をこする。

俺が目をこするもう片方の手は
しっかりとAと繋がれたままで。
…あ、結局あのままだったんだ。と思い出す。


『……』


A。俺は

Aに謝らなきゃいけないことがある。
俺の全てをAが受け止めようとしてくれた事は嬉しい。
だけど、やっぱり、言えてないことがいくつかある。
信じようとしてくれたのに
受け入れようとしてくれたのに
まだ臆病で
弱くて、怖くて
こんな俺でごめん。

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