ピエロの涙8

episode357 ページ7

「何が？」

「なかじんはさ、Aが大好きで大好きで、大切すぎて
あえて自分の想いを伝えないことを決意したんだろうけど」

「…わかってんじゃん」


彩織ちゃんもすとんと俺の隣に腰を下ろす。


「なかじんはそれで良いの？
たしかにAは深瀬が好きかもしれない。でも、二人の恋愛をただ眺めているだけで、苦しくない？叶わなくたって、伝えることくらい、しても良いんじゃないの？」


ふと、中学の頃を思い出した。
関係が壊れるのが嫌だ。ずっと、幼馴染としてそばにいたのに
それじゃいられるのが嫌だと
女子のような理由でAに思いを伝えられずにうじうじしていた俺を
いつも彩織ちゃんは少し呆れたように見ていて
それで、いつも話を聞いてくれていた。


Aは呆れるほどに鈍いからね。
あの子を好きになったのが運の尽きかもね。
少しいたずらっぽく言った彩織ちゃんの顔は
今でもはっきりと覚えている。


彩織ちゃんは、良き理解者だった。



「伝えちゃ…ダメだと思うんだ」


彩織ちゃんは、どうして？とでも言いたいように首を傾げる。


「俺は…Aが誰を一番大切に想っているか、知ってるから…
それが、俺じゃないことも、知ってるし……でも、Aは優しいから。きっと、俺が思いを伝えたら、ちゃんと考えてくれる」

「それはそれで良いんじゃない？」

「ダメだよ、俺がAに今、想いを伝えたら、Aは真剣に考えちゃう。もしかしたら、俺のために、って、俺の気持ちを優先させて、自分の気持ちを殺して俺のところに来ちゃうかもしれない。俺、知ってるよ……




あいつ、すっげー良いやつなんだ…
すごい、優しくて…
そういうやつなんだよ……
そこが、好きなんだよ………」


なんだか、話し出すと、想いが止められなくなってきた。


「もし、Aが俺のところに来てくれたとして、でもきっとAはずっと深瀬のことが好きだから、また苦しい思いをする。
杏子先輩と深瀬の二の舞になるかもしれないし、
俺は、いくらAが俺のところに来てくれたとして
そのせいでAが苦しむところは見たくないんだ」


もう、Aには
泣いて欲しくないんだ。

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