ピエロの涙8

episode395 ページ45

＊




今日の授業はバレーだった。
当然、バレー部の真一は大活躍で、かなり多くの女子からの黄色い声を浴びていた。当の本人はちょっと困ったようにあはは、なんて笑っていて。
そんな照れてなんかいないで、かわいい彼女でも作れば良いのに。真一は顔もなかなかイケメンだし、運動も勉強も出来る。真一がかなりモテるのを私は知っているし、中学の頃も何度か友達から相談されたことがある。

少女漫画かなにかなら
「応援するよ」と言ったくせに、その人を好きになってしまって、友情を取るか愛情を取るかで板挟みになって苦しむところだけど、幸い私にそんな事はなく、無事、キューピット役を私は遂行しようとした。それなのに、真一はことごとく、自分に好意を持つ女の子を振ってきた。真一に告白した女の子たちは、どの子もそこら辺のアイドルよりもかわいいような子たちなのに、一体何が気に入らないのか。

真一は告白される度に、決まってこう言う。


「ごめん、君のことは好きになれないと思う」


"君のことは"
まるで歯と歯の間に何かが挟まっているかのような
違和感のある言い方がいつも私は気になっていた。


ジャージ姿の彩織と歩いていると、噂をすれば(私の心の中でだけど)真一がいた。


「真一！」

「あ、A。どう？少しはトス上手くなった？」

「全然ダメ〜」


そんなことを話しながら歩き出す。


「あれ、深瀬は？」


と彩織が聞くと、真一は肩を竦めながら


「わかんない、先に教室に戻ってるんじゃないかな」


と言った。
普段は私たちや真一と一緒に行動するくせに
いつも体育のあとだけは、そそくさと自分で勝手にどこかに行ってしまう。おかげで私は一度失恋をしたわけだけど。
何故そんなに早くいなくなってしまうのかを聞くと、体育後は疲れているから、早く休みたいんだそうだ。入学してからというもの一度も授業に出ていないくせによく言うよと思う。


バレーの上手なプレイの仕方を語り出した真一の話を、うんうんと参考程度に私と彩織で聞いていると、突然真一が、


「あ、そういえばあの子……」


とキョロキョロしだす。


「あの子って？どうしたの？」


と聞いた瞬間、きゃー！！！と声が聞こえた。

episode396→←episode394

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す