episode352 ページ2
慧は少し冷静さを取り戻してきたようで、少し恥ずかしくなってきたのか、後悔混じりのため息をつきながら
『…さっき、泣いてごめん』
物憂げに手で顔を覆った。
「良いよ、私なんてしょっちゅう泣いてるしね」
『あはは、たしかに。
俺…さ、たまに夜が怖くなることがあるんだ』
夕日が沈んで、闇がやってくる。
冷たくて途方もないような闇が這い寄ってくる。
逃げるように眠ろうにも眠ることが出来ない、このまま、目を覚ますことが出来なかったらどうしよう、と。そう考えると、怖くて仕方ないときがたまにあるんだ。
慧はそんなようなことを言った。
『だから、朝とか、昼とか、人が多いところだと、少し安心しちゃうんだ』
慧は少しいたずらっぽく笑う。
「だからって授業中寝ちゃうのはだめだよ〜」
『はは、気を付ける』
少しずつ慧の顔に笑顔が戻る。
『今日もいつもと違って人がいたし、部屋にはなかじんがいたし、同じ空間に人がいるだけでだいぶ心持ちが違うから、今日は眠れても不思議じゃなかったんだけど、眠れなくて……
…それで、誰かがいても、それでも昔、眠れないときに、いつも俺の話し相手になってくれていたのが、その人なんだよ』
慧は、懐かしいことをゆっくりと丁寧に丁寧に思い出すように
優しく話す。
『彼女、歌が大好きで、いつも、俺に色々な歌を聴かせてきて。俺が音楽に興味を持ったのも、それがきっかけなんだ』
「もしかして、さっきの歌は彼女の歌?」
慧は何も言わずに微笑んで、空を見上げて頷いた。
『彼女と二人であの歌詞を考えた』
ギターでも伝わる、キラキラとしたあの前奏。慧の柔らかな声。満天の星空が目に浮かぶような世界観と歌詞。
“眠れない僕たちは”
やっとあの曲の内容の意味が分かった。
「…そっか、それで慧はさっき彼女の歌を歌うのが哀しくて泣いたの?」
『半分正解で半分はずれ』
私は首を傾げる。
『もちろん、彼女のことを思い出すと苦しいし、不用意に歌って思い出すのも嫌だったから躊躇した。
彼女のことを思いだすと、勝手に涙が出そうになる。だけどね、我慢できないほどじゃないんだよ。さっき泣いたのはね』
慧と目が合った。
・
『A、君が彼女に似てたからだよ』
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真冬のひまわり(氷華)(プロフ) - 抹茶好きの茉莉花さん» 茉莉花さん、おひさしぶりです!いつも読んでいただきありがとうございます!まだまだ終わる気配もありませんが、御付き合いいだけると嬉しいです!登場人物が増え、混乱するかもしれませんが、すみません。 (2016年9月25日 21時) (レス) id: 8ad18557ee (このIDを非表示/違反報告)
抹茶好きの茉莉花(プロフ) - 前回茉莉花という名前でコメントした者です。ピエロの涙が更新される度に楽しく読ませていただいてます(*^^*)また新たな登場人物が出てきてドキドキしてます…。これからも更新頑張ってください。応援してます! (2016年9月24日 14時) (レス) id: aa09b11676 (このIDを非表示/違反報告)
真冬のひまわり(氷華)(プロフ) - いちごさん» お久しぶりです!最近いちごさんがいらっしゃらないので、お忙しいのかなー、なんて思ってました。短くまとめることが出来ずにだらだら書いてしまっているだけなので、そんな風に言っていただけて嬉しいです!これからもたまにコメントいただけると嬉しいです! (2016年9月20日 20時) (レス) id: 8ad18557ee (このIDを非表示/違反報告)
いちご - お久しぶりです。行事が重なったり、夏休みがハードスケジュールでなかなかこちらに来ることができませんでした。今やっと7が読み終わり8を読み始めたところです。長く続けられるということはすごいことだと思います。これからも楽しみに読みますね。 (2016年9月20日 17時) (レス) id: 318aaa198e (このIDを非表示/違反報告)
真冬のひまわり(氷華)(プロフ) - ニカちゃん大好きさん» いつもコメントありがとうございます!やっと深瀬さんが動き出そうとしています、あたたかく見守ってあげてください……(笑) (2016年9月14日 20時) (レス) id: 8ad18557ee (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:真冬のひまわり | 作成日時:2016年8月15日 9時