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錯乱のひどいお婆さんをどうにかなだめようとしましたが、彼女は何か小声でブツブツと呟いていて、少し気味が悪くなってしまいました。代金を置いて、半ば逃げるようにして民宿を去ります。
村のでこぼことした石畳を進みます。目指すはローア家邸宅の存在する、黒い森。しかし私は、なにげなしに村を見渡しているうちに妙な事に気付いてしまいました。
なぜか、若い女性が一人もいません。
朝早いから、まだ眠っているのかもしれませんが……それにしたって、一人も見かけないというのはおかしい。
農作業をしているのは男の人ばかり。声をかけようかと思いましたが、やめておきました。彼らの顔があまりに暗かったもので、気圧されてしまったのです。まるで何か、絶望でもしてるみたいに。
そうこうするうちに森の入り口にたどり着きました。近付いて分かったのですが、私の予想は当たっていました。葉の色がやたらと濃いのです。だから遠くからだと黒く見えたのね。鬱蒼と生い茂る木々の葉のせいで、まだ朝だというのに、森の奥まで見る事ができません。もしかすると、由来は木々の黒さではなく、この暗さからきたのかも。
ウィスタリアの花がそこかしこから垂れ下がって、森の中は花の強い香りがします。グリムの村の家畜の匂いが分からなくなるくらい。雑草や苔が隙間から生えてきている石畳を、ひたすら進みます。……せめて整備くらいはするべきではないのでしょうか。でこぼこがひどいうえに暗くて足元が見えないから、何度も転びそうになってしまいます。
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