バスタブと犬 -JK- ページ4
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「ここにします」
築年数もかなりいっていて 収納も少ないし、扉もなんだか閉まりづらい おまけにすきま風が音を立てるようなこのアパートをほぼ即決で決めたのは幼い頃からの夢だった猫足のバスタブがあったからだ。
猫足バスタブは、浴槽の下に隙間があり そこに汚れやカビが生えると担当者からネガティブな発言をされても心はひとつも揺るがなかった。
私はどうしてもこの浴槽に浸かりたかった。
引越し作業を終え、全身汗だくになった私は意気揚々と浴槽にお湯を溜めた。
ようやく夢が叶う、と頬が緩む。
勿論自動湯はりではないため、何度も浴室のドアを開けお湯が溢れないように念入りにチェックした。
湯気を立てるバスタブが完成して、いざ入らんと汗まみれのTシャツに手をかけた瞬間
ピンポン、と古臭いチャイムの音が響いた。
言うまでもなくインターホンのモニターなどないので渋々とこの迷惑な来訪者を確認するために玄関のドアスコープに顔を寄せ、方目をつぶって覗き込んだ。
そこには全身真っ黒の服に同じく黒のバゲットハットを被った男がにこにこと立っていた。
見覚えがあるのが悔しい。
「A、いるでしょ?」
コンコン、と控えめに鳴るノックに浅い溜息をつき私は玄関を開けた。
「ジョングク」
「や」
手のひらをひらりとなびかせて人懐っこい笑顔を見せる彼は大学時代の同級生だ。
所謂、何でも無い関係。恋人でもなければ友人でもない。
ただ私は彼の隅々までを知っているし、彼もまた然り。
大学を卒業してもずるずると連絡を取り合い、たまにこうして会うような怠惰な間柄だからこそ
今来て欲しくない人間の一人だった。
「引越しおめでと」
ただ、そう言いながら飲み物や食べ物が雑多に入ったビニール袋を差し出すジョングクを突き返すことが出来るような仲でもない。
なんて言ったって4年以上の付き合いだ。
「ありがと
まだ汚れてるけど良かったら」
部屋の中に招き入れるジェスチャーをすると、より一層にっこりと笑みを零し いそいそと大きな体を揺らしながら入ってくる。
大型犬、という表現がこんなにもしっくりくる人間はジョングク以外に知らない。
部屋の中をじっくりと見回したり ちょこちょこと色んなものを触る彼をソファに座って眺めていると、鞄から洗顔フォームやら化粧水やらを取り出し洗面所へ向かう。
ついて行ってみればさながらマーキングのようにそれを並べ立てる彼に苦笑が漏れた。
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K(プロフ) - エルさん» コメントありがとうございます。嬉しいお言葉本当にありがとうございます!短編はまだ書きたいものが残っているので少しずつ追加していけたらいいなと思っております、また覗きに来て頂けると幸いです! (2022年2月3日 8時) (レス) id: 2712528a63 (このIDを非表示/違反報告)
エル(プロフ) - 他の作品もそうですが、言葉の紡ぎ方や表現の仕方が本当に素敵で大好きで、読み終わった後もしばらくぼーっとしてしまうほどのめり込んでしまいます!いつも素敵な作品をありがとうございます!短編は今まで以上に色んな解釈ができる含みがたくさんあって痺れます。 (2022年2月3日 3時) (レス) @page7 id: 7f99fbeab9 (このIDを非表示/違反報告)
K(プロフ) - hirotdmさん» コメントありがとうございます!本当に嬉しいお言葉…ありがとうございます。さらりと書きたいものを書きたい時に書こうと思い始めた短編ですが、良ければたまに覗きに来て頂けると嬉しいです。 (2021年10月20日 23時) (レス) @page5 id: 2712528a63 (このIDを非表示/違反報告)
hirotdm - Kさんのお話大好きです。作品ごとに主人公ちゃんになりきり、本当にどうしたら良いのか行き詰り悩み、色んな感情が押し寄せて来ます。強くて儚くて…。短編集はオアシスです。どちらも好きです! (2021年10月20日 22時) (レス) @page1 id: 8ff53c5457 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:K | 作成日時:2021年10月19日 17時