水流 -ALL SHORT-

ありふれた日常 -NJ- ページ2

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ガスコンロのレバーを捻るとカチカチっと火花が散った。
ぼっと音を上げて青とオレンジの炎が灯る。
小鍋にたっぷりと水を注ぎ それを火にかける。

仕事帰りにスーパーに寄り、半額になった鮪を二柵 パックから取り出しまな板の上に乗せる。
塩と胡椒をさらりと両面に振りかけ、銀色に光るバットに移しサランラップをかける。
それを冷蔵庫に仕舞うと、ぐつぐつと言い出した鍋に 昨晩切り分けて残しておいた雑多な野菜を放り込む。
お湯に晒されしなしなと体積が減っていく野菜を少しだけ眺め、鶏ガラスープの素と塩を少々。
冷蔵庫から卵を2つ取り出し、かちゃかちゃと容器で溶くと黄色い黄身がふんわりと白身と混ざり合う。
沸騰を続ける鍋の火を一旦止め、溶いた卵を菜箸伝いに流し入れる。
入れた途端にぶわっと固まり出す卵を見つつ、もう一度ガスコンロを付け、弱火にする。
ネギの白い部分だけを少し切り、縦に切込みを入れ開き 細く千切りにし 卵の上にはらりと乗せる。

出来上がったスープの鍋に蓋をして、冷蔵庫に入れて置いた鮪を取り出したところで玄関からがちゃりと音がした。


｢ただいま｣

マスタード色のタートルネックに黒いロングコートを羽織ったナムジュンが焦げ茶色の手袋を外しながらキッチンに入ってくる。

｢おかえり｣

カバンをチェストの上に置き、中から分厚い本を取りだし それをダイニングテーブルに乗せる。

｢いい匂いだ｣

卵と野菜の素朴なスープしか完成していないに関わらずナムジュンはにっこりと口元を緩ませた。
手を洗ってくるよ、とコートを掛けながら洗面所に行く彼を見送り 火をかけたフライパンにオリーブオイルを流す。そこに刻みにんにくを少量入れるとチリチリと音を上げながら香ばしい香りが部屋に広がる。
そこに鮪をそっと入れてソテーする。じわじわと色を変えていく鮪に醤油と味醂と酒を合わせたソースを流し入れ、しばらく小気味良い音を堪能する。

手を洗い終えてリビングに戻ってきたナムジュンは先程より一層良い香りで満たされた部屋で深呼吸をした。

｢お腹が空くね｣

ふふ、と笑い声で返事をし、ソテーされた鮪をまな板でそっと切る。
黒い横長の皿に移し替え、フライパンに残ったソースをスプーンで適量回しかけ 胡麻を散らす。


食卓に並んだそれらを愛おしそうに見つめ、

｢今日もお疲れ様、ありがとう｣

と呟き、ナムジュンは私のグラスにお茶を注いだ。

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