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魚のダンス -TH- ページ1

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一面の星空を見ながら川べりに座ると
秋めいてきた風が頬を掠める。
現実から逃げ出した私と、それを許さなかった彼とで2人。
初めこそ、早く戻ろう こんなの駄目だと否定ばかりだった彼も
仕舞いには その日暮らしも悪くないな、だなんて言い出す始末。

「落ちてきそうだ」

空気がまるで自分と一体化したような、目に映るもの全て丸ごと自分になったような そんな感覚を覚えているのは私だけじゃないようだ。
彼は大きな目を更に大きく開いて空に向かって片手を突き上げる。

田舎の夜は星を見上げながら、彼が小さく歌う歌を聴くことくらいしかすることが無いのにそれが一番の酒のあてになった。瓶から少し白く濁った液体をコップに注ぎ、ちびりと口の中に含むと
鼻から抜けるアルコールの気体は 少しだけ私と世界の融合を薄めたようだった。

「A あと何年ここにいる?」

あと何年。
どうだろう。ただ漂うように流れて この先自分がどこに辿り着くかなんて 分かるはずがない。
彼の大きな瞳は星を離さない。その中にもうひとつの宇宙が広がっていて 見つめられたらきっと、どこかに連れていかれてしまう気がするのだろう。

「俺もずっとここにいようかなぁ」

出来るならばそんなことはしないでほしい。
ここは私だけの場所で、本当は彼がずるずるとここに居残っている事にすら不満があるのだ。
一筋、星が斜め下に流れるのを見ると、彼は眉尻を下げて笑った。

「だめ?」

そう、だめ。
早くその日暮らしなんかやめて 彼の本来の居場所に戻って 全部元通り。
そうしてほしいのに、また小さく歌い出す彼の声に自然と耳は傾き 心地よく目を閉じてしまう。

全身で彼の歌を聴くと
苦しいような 切ないような
どうにも言葉にできない何かに包まれるようだ。

相変わらず煌々と川べりに反射する星々に飛び込むように魚が一匹跳ねた。
ぱしゃん、と音を立てる魚は 美しく舞っているようにも、もがき苦しんでいるようにも見えた。


それは毎日飽きもせずに新しい花を持ってくる彼に似ていた。


「ねぇA
帰ろうよ」

「一緒に、帰ろうよ」

「それか
俺もそこに連れてってよ」


星がもう一筋流れる。




「やっぱり、駄目かぁ」



宇宙からも一筋の流れ星。
そっと腰を上げて また明日くるね、と呟き
彼は川べりを後にした。




彼が居なくなっても
死にたくなるほど
美しい星空の夜は更ける。





--end--

ありふれた日常 -NJ-→



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K(プロフ) - エルさん» コメントありがとうございます。嬉しいお言葉本当にありがとうございます!短編はまだ書きたいものが残っているので少しずつ追加していけたらいいなと思っております、また覗きに来て頂けると幸いです! (2022年2月3日 8時) (レス) id: 2712528a63 (このIDを非表示/違反報告)
エル(プロフ) - 他の作品もそうですが、言葉の紡ぎ方や表現の仕方が本当に素敵で大好きで、読み終わった後もしばらくぼーっとしてしまうほどのめり込んでしまいます!いつも素敵な作品をありがとうございます!短編は今まで以上に色んな解釈ができる含みがたくさんあって痺れます。 (2022年2月3日 3時) (レス) @page7 id: 7f99fbeab9 (このIDを非表示/違反報告)
K(プロフ) - hirotdmさん» コメントありがとうございます!本当に嬉しいお言葉…ありがとうございます。さらりと書きたいものを書きたい時に書こうと思い始めた短編ですが、良ければたまに覗きに来て頂けると嬉しいです。 (2021年10月20日 23時) (レス) @page5 id: 2712528a63 (このIDを非表示/違反報告)
hirotdm - Kさんのお話大好きです。作品ごとに主人公ちゃんになりきり、本当にどうしたら良いのか行き詰り悩み、色んな感情が押し寄せて来ます。強くて儚くて…。短編集はオアシスです。どちらも好きです! (2021年10月20日 22時) (レス) @page1 id: 8ff53c5457 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:K | 作成日時:2021年10月19日 17時

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