ここでキスして。 (ページ10)

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ピンポン、と小気味良い音が鳴る。

鍵は空けて置いたから、わざわざ出向く必要は無い。
手に残ったワックスで毛先の最終調整をしていると、部屋のドアが開いた。

「おい、カギあいてたで」

「うん、A来るから開けといた」

「アホやん、危ない」

小突こうと俺の頭に手が伸びたけど、セットしてるのを見て、ちょっと迷った末に右頬を摘まれた。

「いひゃい」

「兄貴は？」

「かのひょとでーと」

「おかんとおとんは？」

「そっちもでーと」

「ふは、そんで康二もデートか。リア充ファミリーめ」

くしゃって笑う目元に心臓が変な音をたてる。
…てか、なんか今日かっこよすぎひん？？

「そんなニット、持ってたっけ、？」

「ん？買った。ZOZOの後払い」

「うわ、年中金欠男」

「やかまし、2ヶ月後の自分を信じての投資や。
今日のためにおろしたんやで？」

「…ほーーん、」

あかん、口角あがる。

内頬を噛んで目を逸らすと、くつくつ楽しそうな笑い声が降ってきた。

「……なにわろてんねん」

「こーじ、耳あっかい」

「部屋が熱いんや、はよ行こ」

「はいはい、お前は可愛いねぇ」

ベッドに放り投げて置いた俺のカバンを持って、さっさと部屋を出ていくA。

俺ももう一度鏡を見て、その背中を追いかけた。