ここでキスして。 (ページ5)

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「、かっこええなぁ」

テストまでの待ち時間、近くにいた女子の集団から聞こえたヒソヒソ声。

視線の先は見なくても分かる。

嫌やダルいとか言いながらも黙々と教師の前でラケットを振る姿は酷く様になっていて、俺も吸い込まれるみたいに視線を向けた。

うん、カッコイイ。
ジャージがつんつるてんなのはダサいけど。

「やっぱ好きやなぁ、うち」

「え！やめときや〜……女癖悪いやんアイツ」

「そやけど…」

死んだ貞操観念を込みにしても、惹かれるもんは惹かれる。
分かるで？狡いよな

吹き抜けた秋風が思ったより肌寒くて、長袖を忘れた俺は自分で自分を抱きしめる。

……なんか切なァ、

今は高３の10月、卒業まであと少し。
高校卒業したら、Aとのズルズル続いた腐れ縁も切れんのやろか？

俺はボチボチ大学決めてるけど、アイツからそんな話はミリも聞かん。

いい加減A離れせないかんとはおもうけど、
離れたくないし離れて欲しくない。

なんも可愛くない、気持ち悪い独占欲

…A可哀想、俺なんかに片思いされて

乾いた秋風のせいでちょっとセンチメンタルになっていると、ふわりと体が暖かいものに包まれた。

「ただいまこーじぃ」

「お、かえり、これ」

「貸したげる、俺動いてあっついし」

「…一応借りもんやで？」

「えーんよ、どうせ洗って返すんやから」

まだ順番来んのやから着ときって上着の上から腕をさすられる。

なんか堪んなくなって体操座りした膝に顔を埋めると、
今度は肩に腕が回された。

「そんな寒いか？」

「…ん、寒い」

「風邪ちゃう？どうせまた布団蹴飛ばして寝たんやろ」

「俺寝相良いし」

「はいはい、あっためたる」

ほんまずるい、好き、
タイミングいいんか悪いんかわからん

A、A、お前はいつまで俺の傍に居てくれるん？

「ほんま、康二は手かかるわ」

「…せやで、やからちゃんと面倒見てよ？」

隣のAを見上げると、
少し目を見開いた後ふにゃりと溶けた顔で頬を摘まれた。

「康二かあいいから特別や」

何人の女を抱いてようとも、
何人の女に愛を囁いてようとも、

Aの一番で特別は俺だけ。

この立場が大好きで大嫌いや。

『一番』は、あとは抜かれるだけやから。