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56本目 ページ9

「申し訳ございません」


「大丈夫ですよ!こっちの方が動きやすいし」


沈んでしまうのではないかと思うほど顔を暗くするかすみさんに笑いかける。


「女神に私の衣を着させてしまうなんて」


そうなのだ。
私の衣は儀式の衣以外、全て破かれてしまっていた。
そのため、かすみさんの衣を借りている。


「気にしないですよ。
さぁ、始めましょ!」


私は両手を広げて、お茶とお菓子を示す。


香ばしい緑茶と最中のようなお菓子。
これ美味しいんだよね


「はい!
……それでは早速、先代様のことですよね?」


「はい。お願いします」


「何から話せば良いのでしょうか……
A様が儀式の時に咲かせた花はなんですか?」


「えっと、牡丹かな?」


久しぶりに花の話をした気がする。
すっかり忘れてしまっていて、思い出すのに時間がかかってしまった。
そんな私をかすみさんがクスッと笑う。


「そうだったのですね。
高貴、壮麗、誠実……まさにあなたにぴったりの花ですね」


「そういう花言葉だったんだ……」


「先代が咲かせた花は花金鳳花(はなきんぽうげ)です」


花金鳳花……。
あれ?お母さんが言っていた気がする。
洋名は……ラナンキュラスだ


「花金鳳花の柔らかく、華やかな佇まいはまさに先代の姿を現しておりました。
そして花金鳳花にふさわしい、優しい心遣いをお持ちでした」


かすみさんは何かを大切にするように胸に手を当てて話を続ける。


「私は当時、多くの侍女のたった1人でしたので、先代との関わりは多くありませんでした。
しかし、お召し物を届けるたびに、とても優しい声で「ありがとう」とおっしゃられたのです。
天の上のお方で、尊き方でしたのにこんな私にも声をかけてくださる……心の広いお方でした」


「すごくいい人だったんですね……きっと女神にふさわしい」


思わずでた言葉にハッと口を押さえた。
案の定、かすみさんはぽかんとしていた。


(ばか!言っちゃダメだったのに)


でも、思わずにはいられなかった。
話を聞くたびに自分にはないものばかり持っている、先代の女神様が羨ましくて仕方がない。


「素敵なお方でしたよ。
先代の侍女頭が女神を慕っていたのも頷けます……まるで今の私のように」


「え……?」


思わず間抜けな顔をしてしまった私を見て、かすみさんが笑った。
珍しく小さくだが声を出している。

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なつの(プロフ) - ぽんぽこさん» ありがとうございます!私もこのお話書いていて楽しかったです。ぽんぽこさんにも楽しんでいただけで嬉しいです!コメントありがとうございました! (2020年1月6日 8時) (レス) id: 1923d39783 (このIDを非表示/違反報告)
ぽんぽこ(プロフ) - 長文失礼しました! (2020年1月6日 1時) (レス) id: c596b916dc (このIDを非表示/違反報告)
ぽんぽこ(プロフ) - 完結おめでとうございます!最後の方を読みながら少し泣いてしまった...。個人的にこの話がすきで、終わってしまったのは悲しかったけど、浦田さんend見れたから良かった!ありがとうございました! (2020年1月6日 1時) (レス) id: c596b916dc (このIDを非表示/違反報告)
なつの(プロフ) - ふごっぺさん» 返事が大変遅くなってしまいました!!ありがとうございます! (2019年12月25日 16時) (レス) id: 1923d39783 (このIDを非表示/違反報告)
ふごっぺ(プロフ) - 個人的にはうらたさん落ちがいいなと思っています。 (2019年10月5日 10時) (レス) id: 78ff944084 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:なつの | 作成日時:2019年9月30日 23時

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