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いかな悪戯好きの二人と言えど、まさか村の掟を破って北の峠を越え、
本物の竜を探しに行こうなど考えているわけではないだろう。
半ば祈るような気持ちで、ユージオはおそるおそる訊ねた。
「つまり、ルール川を見張って、氷が流れてくるのを待とう……っていうこと?」
『そんなの待ってるうちに夏が終わっちゃうよ?』
「別にベルクーリの真似をしようってわけじゃないよ。あの話だと、洞窟に入ってすぐのところにでっかいツララが生えてたって言ってたろ?」
キリトの話に理解したアリスが話に加わった。
「つまり、そのツララをニ、三本折ってくれば、実験にはじゅうぶん間に合うってわけね……」
アリスの回答にキリトとアオイはそうそう!と頷く。
「だからってお前……」
ユージオは少しの間絶句して、傍らを振り返って、代わりにこの無鉄砲どもを諫めてくれないものかとアリスを見た。
そして彼女の青い瞳の奥に、キラキラと常ならぬ光が宿っているのに気付き、内心で肩をがくりと落とした。
___甚だ不本意ながら、ユージオとキリトとアオイは、村一番の悪餓鬼トリオとして老人たちから溜息、苦言叱責等々を日常的に頂戴する身である。
しかし三人の数々の悪行の裏に、村一番の優等生アリスのひそかな扇動があることを知る者は少ない。
そのアリスは、右手の人差し指をふっくらした唇にあて、さも迷っているふうに数秒間沈黙してから、ぱちりとひとつ瞬きをして言い放った。
「__悪くない考えね」
「あ、あのねぇアリス……」
「確かに、子供だけで北の峠を越えるのは村の掟で禁じられているわ。でも、よく思い出してちょうだい。掟の正確な文章は、
【大人の付き添いなく、子供だけで北の峠を越えて遊びに行ってはならない】__ってなってるのよ」
「え……そ、そうだっけ?」
思わず言い出しっぺの二人と顔を見合わせる。
村の掟、正式名《ルーリッド村民規範》の実体は、村長の屋敷に保管されている厚さニセンほどの古めかしい羊皮紙綴りだ。
子供は皆、教会の学校に通うようになるとまずこれを覚えさせられる。
その後も、事あるごとに親や古老たちから
「掟では」
「掟によれば」
と聞かされるため、十一歳になった今ではもうすっかり頭に染み付いてしまっていた。
と思っていたのだが、どうやらアリスは全条文を一字一句まで正確に暗記しているらしい。
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さばとはちわれ2号(プロフ) - ありがとうございます!これからも頑張っていきます!! (2020年3月25日 15時) (レス) id: 1e29d08f47 (このIDを非表示/違反報告)
華月 - 題名に心を惹かれて読んでみましたが、とても面白いです!更新頑張ってください!! (2020年3月11日 8時) (レス) id: cdafea63d8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:さばとはちわれ | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/siotaaki
作成日時:2020年2月17日 22時