ハイリスクノーリターン (ページ19)

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干物女の恋ページ19

彼は黙って私にメニューを差し出す。

レディーファーストまで心得てる…。

「う、ウーロン茶…で。」

酒は飲んでも飲まれるな。
そんな標語が頭に浮かんで
だったら飲まなきゃいいんじゃん。

「気を使わなくていいのに。
お酒好きなんですよね？Aさん。」

別にあなた達に気を使ってるわけではない。
決して違う。

目も当てられない姿を晒してしまうんじゃないかという恐怖からであって。
そんなつもりは毛頭ないのです。

そんな会話を聞いていたのであろうジュンミョンが
「これでいいよな？」って私の同意なしに勝手にビールをセレクトしたもんだから。

あれだよね。
察して欲しいことは察してくれないくせに
そうじゃない時は真反対なんだこの男は。

やって来た店員さんに中ジョッキを渡されて
真ん前の彼も同じもので。
何だかそれだけで、変だけど、認めたくないのに嬉しいと思うのは何事なんだろう。

「カンパーイ！」って私以外はテンション高め。
ゴクゴク喉を鳴らす男どもを見ながら控え目に白い泡に口をつけた。

「僕またAさんに会いたいなーって思ってたんですよねぇ。」

「そうそう。
今日の飲み会が決まった時連れてこいってこいつが言ったんだよ。」

「あ、そうなんだ…はは。」

ジョンデくんの言葉は嬉しい反面
彼も会いたいって思ってくれたのかなって、妙な乙女心が顔を出して。
慌てて打ち消した。

乙女心って何なんだよアラサーのくせに。

「ジョンデくんは、仕事どう？楽しい？」

「まぁ、楽しいっていうのはアレですけど。
やり甲斐はあるかなーって感じですかね。」

「ギョンスくんは？」

「僕もそこそこ頑張ってはいますけど。
中々認めてくれなくて、頭の固い上司が。」

「ふ、ふーん。そうなんだ。」

一通り2人とは会話を交わしたけど
私から話しかける勇気はなくて。

や、勇気とか、別に必要ないし。
話す内容がないだけだし。

自分を納得させようとしていると。

「Aさん。」

彼が私を見ている。何だろう。それだけで緊張するからやめてくれないかな。

「な、何でしょう？」

「僕の名前、覚えてますか？」

唐突にブッ込まれた言葉に
そういえばまだ彼の名前を一度も口にしていないことに気づいた。

「もちろん。覚えてるよ。」

忘れようったって忘れられない。
本当は何度も努力したけど。

「セフン、くん…。」

名前を発するだけで暑くなる。

鎮まってよ心臓。