ハイリスクノーリターン (ページ13)

今日:5 hit、昨日:9 hit、合計:798,016 hit

５ページ13

・

分かってた。気づいてた。
でも認めたくないことって多いにあるでしょ？

だから私はまた1つ嘘をつく。
自分自身に。

ドクドクと脈打つ自分だけにしか聞こえないこの音は、きっと今飲んでるサワーのせいだ。

ジョッキに残った半分を、一気に喉に流し込む。

「うわっ、いい飲みっぷり。」

「ちょっと、喉乾いちゃってさ。
ジョンデくんももっと飲みなよ、ほら。」

メニューをずずっと差し出すも
私に突き返されるそれ。

「僕はまだ入ってるんで、Aさんどーぞ。」

って言いながらテーブルの上のボタンを押した。
だから私まだ決めてないし。
そもそももう飲む気ないし。

ってゆーか店員さんくるの早くない！？

否応無しにオーダーは通り
私の前に置かれた3杯目のグレープフルーツサワー。

えーい、もうどうにでもなれ！

グレープフルーツサワーのジョッキに口をつけた瞬間。

「はは、お酒好きなんですね。」

先ほど同様ふわりと微笑んだ彼が私に視線を向けている。

いや、どうにでもなっちゃダメじゃん。

自制しなきゃ。自制。

ちょっぴり味だけ確かめて

「ま、まぁまぁです。」

と、更に嘘を重ねた。

先ほど紹介された彼は
同じくジュンミョンの大学の後輩で
まだ社会に出てから間もない新入社員くん。

つまり私とは6歳も年が離れているわけ。

ここまで来るには少し遠い場所に職場があって
定時上がりじゃないためにちょっと遅れて到着した。

ってジュンミョンが。

彼らは大学の時同じサークルで
卒業した今でもこうやって会っては飲みに行くくらい仲が良いらしい。

いよいよ謎だよね。
私がここにいるの。

しばらく座って年下くんたちを眺めていたけど
不釣り合いな私はそろそろお暇した方がいいんじゃないかしら。

アラサー干物女は家に帰ってスルメくわえてる方がお似合いだ。

そうだ。
私は干物女なんだ。
自分でも認めてる。

恋愛なんてとっくの昔に諦めてるんだ。

ジュンミョンは奢ってくれるって言ってたから
トイレに行くふりをして席を立った。

これ以上自分の気持ちを乱されるのはごめんだ。

もう2度と会うことのないであろう彼らに貼り付けたようなスマイルをお見せして
いそいそとお店を後にしたのである。