呟き 【文豪ストレイドッグス短編集】

花になろう 太宰治 ページ38

｢私、報われない物語は嫌いだわ｣

女は云った、季節は春、川の上には、流れとともに美しい桃色が揺れている

彼女の顔は、枝垂れ桜のせいで見えなかった

男は云う

太｢そうだね｣

男は知っていた、報われるはずのない物語を

あまりにも残酷で、悲しくて、春の陽射しには似ても似つかないその物語を

いつか交えた酒を思い出し乍、男は何を思うか

太｢私達は、只々悲しい物語の上を歩いただけなのかもしれない｣

｢酸化した世界の夢...だっけ？｣

太｢さあ、私も忘れてしまったさ｣

男は、桜で見えなくなっていた女の手を引いて、河川の方まで連れていった

露わになった女の顔は、どこか遠く遠くを見ている気がした

太｢見てご覧、桜の花びらが川の底に小さな影を作っている｣

｢綺麗ね、川が桃色に染まるところを見たいわ、夕日もあれば完璧ね。｣

女はしゃがんで、揺れている桃色を掬う、そしてちぎる

太｢私は月明かりかな｣

｢今はどちらでも無いわね｣

太｢美しいならいいじゃないか｣

男は靴を脱いだ、そっと川の中に足を入れて、彼女に云う

＿＿さあ、君も

エスコートするように彼女に手を伸ばす、スラリと伸びた腕には、包帯が巻かれている

女は靴を脱ぎ、吸い込まれるように男の手を取った

男は腕をいきなり強く引き、女が倒れこむように仕向けた

予想通りになった彼女の体は、男を巻き込んで水中に沈んだ

水の流れに身を任せ、桃色の花弁を下から見つめながら、ぽこぽこと泡が上に昇るのを感じて、2人は目を瞑る



＿＿＿＿＿＿美しく散る物語も悪くないわね。



翌日、男と女の死体が川で発見されたというニュースが流れた。









_______花になろうfin

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