零 ページ9
「や、やめ___」
善逸は獪岳を斬るその瞬間、確かに自分を静止する声と絶望の音を聞いた。
それも獪岳からではない。
2人より少し離れた下方。聞き慣れたAの声と音。
何故絶望の音を奏でているのかは定かではないが、善逸にそれを気にする余裕はない。
獪岳を切ったことで体力が尽きたために、己もまた落下していく、ふと視界に入る愈史郎に抱えられ善逸は戦線離脱を果たした。
その間にも聞こえてくるAの悲鳴や絶望の音を聞いていると、ふと何かを覚悟する音が聞こえてくる。
そこで善逸は意識を手放した。
＿＿＿＿＿
＿＿
後で知ったことなのだ。あの時Aは獪岳を追って身を投げていたらしい。
無惨も倒し、炭治郎も鬼化したところから何とか人間に戻し、それぞれ生き残った者が己の治療に当たっていた頃、かつてAの鎹鴉であった鴉と会う機会があり、そこで事の顛末を全て聞いた。
なんで、どうしてと思考を巡らせると、一つ気になることがあった。
柱稽古のあの日、Aは確かにある人に追いつきたいのに、全く追いつくことができないと吐露していた。
Aはまだ自覚はなかっただろうが、そう語るAから聞こえてくる音は、｢ある人」に恋心を向けている時のそれなのだと、善逸は瞬時に悟っていた。
もしもその音の向いていた先が獪岳であったのであれば。
あの絶望の音も、悲鳴も、獪岳の事を追って身を投げたのも、全て説明がつく。
そこまで考えて獪岳を斬った事により、なんの罪もない人を死に追いやったのではないかと、善逸は一松の罪悪感を感じていた。
そんな善逸をみやり、Aの鎹鴉は首を1度傾げると鎹鴉にしては珍しく流暢に話し始めた。
「……Aハ、Aノ意思デ黒髪ヲ追ッタ。アナタガ罪悪感ヲ感ジル必要ハナイ。ソレニ、私ニハ分カル、Aハアレデ良カッタ。鬼化シタ者デモ愛シヌイタノダカラ」
愛した者と最後まで一緒にいられたことはAにとってはいいことなのだ。そう語り終えると鎹鴉はそのまま空へと飛び立つ。
関わりが少なかったからこそ、お互いの事をよく知らないが故に、踏み入りきれない領域があるのだと、善逸は理解していた。
きっと、善逸にはどうしようもなかった。
その一言に尽きる。
元より獪岳を斬るという判断は正しかったのだ。
AはA自身で己の進む道を選んだ。それだけのこと。
Aと刻み込まれた空の墓に手を合わせ、善逸は割り切るようにしてその場を後にした。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 12人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
�桟鈬�(プロフ) - リリィなモモさん» 嬉しいお言葉をありがとうございます！そうですね、獪岳が幸せになる世界線が欲しいですね… (7月15日 14時) (
レス) @page10 id: 6e9456ced1 (このIDを非表示/違反報告)
リリィなモモ(プロフ) - うあぁぁ！めちゃくちゃ良かったです！ほんとに獪岳は救いがないので少しでも幸せになってほしいですね… (7月15日 2時) (レス) @page10 id: e604e437d5 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
