リリスという悪魔 ページ1
【敗地に塗れたからといって、それがどうしたというのだ？
すべてが失われたわけではないまだ不撓不屈の意思、復讐への飽くなき心、永遠に癒すべからざる憎悪の念、降伏も帰順も知らぬ勇気があるのだ！
敗北を喫しないために、これ以外何が必要だというのか？
いかなる怒り、いかなる力が彼にあろうとも、
私を取りひしぐ栄光を彼に許すわけにはいかんのだ！】
◆
セーラー服を着た少女は分厚い灰色の表紙をぱたんと閉じた。
表紙には題名も作者名も書いてはいなかったが、背表紙には書いてあった。
『失楽園』ミルトン
少女はそっと背表紙を指の腹でなぞり、ため息をつく。
「何読んでんだ？」
「あ、イヴ...。」
「何？それ。＿＿＿＿失楽園...？ああ、アダムか。」
イヴと呼ばれた恐らく男─────余りにも綺麗な顔立ちと長い髪で男か女か区別がつきにくい────は顔をしかめた。
「イヴ？」
「アダムは神と同じくらい大っ嫌いだ。」
ふん、とイヴは鼻を鳴らす。
少女は少し首をかしげ、それから合点がいったようにああ、と頷いた。
「イヴは"リリス"だもんね。」
「あんま大きな声で言うなよ？」
「分かってるよ。」
「ん、若葉はいい子だな〜」
ここでリリスについて説明しておいた方が良いかもしれない。
世間一般的にリリスについて説明するとすれば、
"神に創造されたイヴ以前のアダムの妻"である。
アダムに愛想を尽かし、リリスはアダムの元を去る。
悲しむアダムを哀れに思った神は
『戻らなければお前の子を毎日百人ずつ殺す』
と脅迫した。
だが、リリスは戻らなかった。
自分の命と自分の運命をはかなんだリリスは紅海に身を投げ、自ら命を絶った。
別の説では自分の後にアダムの妻となったイヴに嫉妬し、イヴを誘惑する蛇になったとも言われている。
だが、此処にいるリリスはそのどれにも当てはまらない気もする。
そもそも自ら性別は男だと言っているのだ。
もっとも、悪魔に性別があるのかは分からないが...。
だが、リリス本人なのは間違いない。
他の悪魔達もそう言っているのだ。
「そう言えば、イヴは何で"イヴ"と名乗っているの？」
「.....そうだなぁ、」
イヴはすぅっと目を細めた。
林檎のように紅い瞳が妖しく光る。
「────イヴがあまりにも美しかったから、かな。」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 3人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
