【妖恋物語:鬼編】人じゃない君に恋をした。【狩屋マサキ】 (ページ25)

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第弐拾参話ページ25

"悪魔さんの話が良い"と言っても。

"Aの話が良い"とは言わなかった。

Aとは言わず、あえて"悪魔さん"と言った。

それは、その言葉真意をわかってのことだろうか。

――それはないか。

きっとただの偶然だろう。

きっと。

「"悪魔さん"というのは、元々私のオリジナルではない」

「オリジナル？」

「つまり、自分で造り出したものじゃない。元は全くの別のものだ。私は"悪魔さん"と言う存在を演じ、利用していただけ」

――マサキには、少し難しいかもしれない。

どうしたら分かりやすく伝えられるだろうか。

そんな私の考えは他所に、意外にもマサキは納得している表情だった。

「昔の呼び名は"死.神"だった」

「……!?」

――そんなに驚くことだろうか？

「現代になってこの容姿は目立たなくなってきたわけだが、昔は悪目立ちし過ぎた。特に、この紫の瞳はな」

気にせず笑ったつもりだが、苦笑い……になっているだろうな。

今でも思い出せば震える。

もちろんこれは冗談ではなく、事実。例え話ではなく、本当のことなのだ。

死.神と、例えるのだから呼び名だけなわけがない。

嘲笑った顔、赤い世界。

――また、傷の痛みが振り返す。

私は思わず右腕を押さえた。

「まあ、それが原因で私はまず化け物扱いされた。だが私には名前がなかったと言っただろう」

振り払うように、話す。

あんなの、思い出したくもない。

「うん……それで？」

マサキは真剣に聞いてくれている。

一言で言い表せば、うれしい。

その瞳には私はどう見えているのかは、それだけはやはり気になるところだが。

知りたいところなのだが。

「名前は縛るもの。名前がなかった私には、その呼び名すら名前となった」

誰もが私をそういう存在だと認めてしまったから。

私ですらそういう存在だと認めてしまったから。

そんな目で、私自身を視てしまったから。

――そうだ。だから、言わなければ。

マサキには、マサキにだけは、そう思われたくないから。

「マサキ」

「ん？」

話を中断させて、マサキの目を視て。

「今からいうことは最低なことだ。許されないことだ」

「……」

マサキは目をそらさない。何も言わない。

ただ真剣に見つめ返してくれる。

どんな言葉も、受け入れるとでも言うように。

「私が最初に化け物になってしまったのは、いや化け物になったのは、ただの復讐の為だったんだ」

――すべてはその為だけの、人生だった。