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街灯で照らされたそこへ三階から駆け下りてくると大きくて真っ赤な機体に乗った場地先輩がいた。
すごく、綺麗な外装。バイク初心者の私でも、その機体がとても立派な物だということはひと目でわかった。
真っ先に目を奪われたのは、今まで見たことも無い、バイクの大きな背凭れだった。見る者を魅せるような靱やかな機体の後ろに、我を示すように聳える背凭れ。漆黒のシートに紅のラインがすぅっと通っている。しかし、場地先輩は、それの頼ることなく背筋を伸ばして、1歩手前に跨っており、その長い黒髪が夜風に揺れ、バイクと一体化していた。
なんだろう、この感じ。心臓が高鳴って、体中が痺れるみたいな高揚感が、足の先からビリビリと脳天へせりあがってくる。
呆然と、先輩とバイクの姿に見蕩れていたら、場地先輩がからりと笑った。
「お前、ゼェゼェいってんじゃねーか」
「は……、はいっ!えーと、あの、その………バイク!バイクすっごくかっこいいです!」
「ハハ、だろ?
「ゴキ……って言うんですね」
軽やかにバイクから降りた先輩に、もっと近くこいよと言われて、二三歩踏み出すともう何だかゴキの圧に溶かされてしまいそうになった。光るボディが私にその艶やかさを自慢している。
「すこし、あの、触ってみていいですか」
「いいよ」
強く触れたらいけない気がして、指先でそっと触れてみる。生き物とは違う硬さにほんのりと残る温かさが、心地よかった。
無機物なのに、生きているかのような温もりだ。先程までエンジンを掛けていたからだろうか。それとも、場地先輩が大事にしているからだろうか。
(きっと、そのどっちもだね)
そう思った瞬間、生き物に注ぐような愛おしさが胸の奥から込み上げてきた。えぇえ、こんなの知らなかった。
バイク、すっごくかっこいい!
「A、ちょっと上向け」
「あ、分かりま、わっ!……何ですか、これ?」
「ヘルメット。オマエ初めて乗るから念の為な」
「先輩は?」
「オレは慣れてるからいーんだよ。長袖はちゃんと着てるな。ヘルのベルト苦しくねーか?」
「大丈夫です」
元気いっぱいにそう答えると、場地先輩はよしと言った。あ、いよいよなんだ……
「じゃあ、A先に乗れ。背中、背もたれにピッタリ付けろよ」
こくりと頷いて、漆黒のシートに手を置いた。
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ふゆう(プロフ) - つのさん» コメレスめっっっちゃくちゃ遅くなってすみません!!コメントすごく嬉しかったので3話程更新させていただきました!!暫くリベ夢から離れてしまっていたんですが、ちまちま更新しようと思うのでまたよかったら読んでやってください☺️ (2022年5月2日 23時) (レス) id: 05ce7d3c5e (このIDを非表示/違反報告)
つの(プロフ) - パレット・デイズってもう更新しませんか?めちゃくちゃ好きでもう一度読んだのですが続きがすごく読みたいです。お願いします! (2022年1月15日 0時) (レス) @page18 id: 3069a38d25 (このIDを非表示/違反報告)
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