[ JW ] 恋愛予行演習 [ 桃×黄 ] (ページ9)

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「何でも好きなもん頼んでええよ」

まだ夕食には早く、一度別れてから家まで車で迎えに来てもらうという至れり尽せりなもてなしを受け、着いたのはいつもの焼肉屋。ありがたいことに近頃はメンバーとこうして仕事以外で会う時間が取れないくらい忙しくさせて貰っており、向かい合って網を挟むと自然とメンバーのことやそれぞれの仕事のことが話題になる。

「全員揃ったの久々よな」
「1週間ぶりとか？」
「あれ、そうでもなかった」
「まあソロが多かったし、頻度的には減ったからな」
「みんな頑張っとるよなあ」

手持ち無沙汰に脂の滴る肉をトングでつつき、まだ焼き目が付いていないまま返す。首を傾げ何か言いたげに口を開くも、言葉を発さないまま結んだのを見逃さなかった。

「何か悩んどん」
お互い、段々と色付いてきた肉に視線を向けたまま話す。こういう時はレストランや居酒屋でなく、相手以外の何か他のことへ注意を向けながら話のできる空間を作ってくれるこの料理がありがたかった。「肉行こう」と言われた時点で凡そ予想はしていたが、何か引っかかることがあったのだろう。尚もトングを動かしながら、ひとりごとを呟くかのように口を開いた。

「撮影、めっちゃ順調で楽しいねんけどな、なんか、寂しくて」
「寂しい？」
「この間さ、フラれる場面撮ったって言うたやん？その後も結構、葛藤というか、恋愛も仕事も上手くいかん、みたいな話が続いて」
「あー、それで自分の気分も沈むねんな」
「分かる？」
「なんとなく」
「撮影の時はまあそりゃ、そうなるんやけどさ、帰ってきてからも何か引きずっちゃって」
「役が抜けきらんのや」
「うん、そう、それ。そんな感じ」

やはりこの間の電話もそれが関係しているのだろうか。感情移入しやすいというのは撮影を進め役になりきる上で有利になるが、自分自身現場を出てまでもその気持ちを清算しなかった事がないためよく分からない。役が憑依する、とはこういうことなのだろうか。それでさあ、と手を止める相手を見遣ると、申し訳なさそうに視線を逸らされてしまった。

「次の撮影の日がクリスマスなんやけどさ」
「うわ、そうなんや」
「夜のシーンやから遅くまでかかるんやけど」
「うん」
「その日、俺ん家居らん？」
「……はい？」