何よりも ページ43
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どの番組をつけてもその話題ばかりで
何度かチャンネルを変えて、電源ボタンを押した。
肌寒かった季節は瞬く間に冬を迎え、窓の外に広がる白い景色を眺める。
数年ぶりに雪を見た気がする。
まだ子供心は健在で、降り積もった雪を見ると何だかわくわくした。
「____A」
私を呼ぶ声が聞こえて、振り向くよりも先に後ろから腕が回される。
『なに?』
「なんでもない」
『何それ』
「呼びたかっただけ」
私の頭の上に顎を乗せて、テヒョンは寒いね、と呟いた。テヒョンの体温は温かいからすごく心地いい。
「ちょっと外出てみる?」
コートと手袋を着けてロッジを出た。
耳が赤くなっているテヒョンに私が着けていた耳当てを着けてあげると
「あは、あったかい」
四角く口を広げて笑った。
見渡す限り広がる真っ白な景色。
そこには私たちが居たロッジ以外何も無い。
緩やかな地平線がどこまでも続いている。この世界に私と彼しか居ないんじゃないかって、少し怖くなるくらい。
『っわ!』
「何ぼーっとしてるの」
私にぶつかって、崩れて落ちた雪の塊。よろける私を見て楽しそうに笑った。
『仕返し!』
「お、やったな?」
小さな雪合戦の後、私の元へ走ってきたテヒョンは勢いよく私を抱きしめて一緒に地面へと倒れた。
ぼふ、と私たちの周りで雪が舞う。
「ぶは、俺の勝ち」
見つめ合って、雪まみれの自分たちがおかしくて笑った。
世間から居なくなった彼が、私の隣にいる。
世界からほんの少し抜け出して、誰も知らない誰も見えない場所で私と過ごす事を望んだ。
今のテヒョンのこと。何もかも、私しか知らない。
数日前、テヒョンは突然私の前に現れた。
「旅行行かない?」
…旅行?って、
『どこに?』
「俺たち以外だーれも居ないとこ」
テヒョンと旅行なんていつぶりだろう。
休み取ったんだ、なんてあの時は軽く言ってたけれど、無期限の活動休止だと知ったのはその日のニュースでだった。
私の手を引いてはしゃぐテヒョンはどこにでもいるような普通の男の子だ。
夢と引き換えに手放した、彼が欲しかった世界。
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ひ - 月が綺麗ですね。白目剥きました。チェゴ (2022年5月16日 12時) (レス) @page49 id: 79678d8172 (このIDを非表示/違反報告)
おけ(プロフ) - このお話好きすぎて寝ないで一気に読みました‼︎他のお話やおまけもぜひ読みたいです‼︎ (2022年2月13日 4時) (レス) @page50 id: a8986157d1 (このIDを非表示/違反報告)
あゆみ(プロフ) - とっても素敵なお話で一気に読み切ってしまいました。。この作品と作者さんのファンになりました(//Ü//)Twitterフォローさせていただきました、おまけもぜひ読ませていただきたいです! (2021年6月28日 18時) (レス) id: e9098fc564 (このIDを非表示/違反報告)
りなぴ(プロフ) - てこさんの描くテヒョンさんが本当に大好きです、とても素敵なお話でした!おまけも楽しみにしております!! (2021年6月22日 8時) (レス) id: 16fceb5abc (このIDを非表示/違反報告)
てこ(プロフ) - hanalieさん» コメントありがとうございます(^^)いくつかお話載せる予定なのでいつでも見に来て下さい♪ (2021年6月21日 0時) (レス) id: 2cb880cbb0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:てこ | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/huumi0000/
作成日時:2021年4月6日 0時