アイするカノジョ。【呪術廻戦】

＃１０「アイ」 ページ44

『アイドル』になったのは、都合が良かったから。


だって、大きな玩具箱にたくさんのお人形さんを詰め込んでそれをたたき落として遊べるんだよ？

だから、私はアイドルになった。

すべては、この日のために。
すべては、私の八つ当たりのために。
すべては、他人を愛したカノジョに対する冒涜のために。
すべては、可哀想なカノジョを救うために。

だから、決して愛が欲しかったわけじゃない。


【そんなわけない。】


愛されていたかった。
愛を受けていたかった。
愛を示してほしかった。
愛を贈ってほしかった。

小さなアイを欲したカノジョを、彼女は愛したかった。



『せめて私だけは、カノジョを愛してあげたかっただけなんだ。』



誰にも愛されない。
虐げられて、毎日自害するように命じられて。

挙句の果てには、死ぬ間際の顔を目に焼き付けろとまで言われた。

私の部屋にあるのは、首を吊る縄が1本だけ。

綺麗なお洋服も、ふわふわなぬいぐるみも、
可愛いお人形さんも、暖かいお布団だって無い。


生きていることを罪と思え、だなんて酷い話だよね。


私が夢見ていたのは、テレビの中で
キラキラしたステージで、可愛いお洋服を着て
たくさんの人に愛されている、そんな『アイドル』。

そんなわけがなくて。

私が毎日見ていたのは、鏡の中で
首に掛かる重力の負荷に苦しんで、泡を吐く
絶望に侵食されていた、そんな私の死に顔。

そんなカノジョを、私はずっとずっと愛してる。



『だから、おねがい。私の邪魔をしないで!!』



彼女は、全呪力を込めて想いを叫ぶ。
感情が、カノジョの呪いを強くする。

【媒呪命捨】、彼女の術式のうちのひとつとして存在する負の感情を生み出すことによって呪霊を生み出す。

呪力を明確に理解した今の彼女は、術式の解釈を拡げていた。

それは、他人を呪うことが可能であれば自分を呪うことも可能ではないのか？


ほら、呪術師としての才能が鮮やかに華を開く。



『今まで我慢させてごめんね、一緒に逝こう。』



この不条理で不平等な世界に生まれ落ちてしまった

傷だらけの愛に飢えたカノジョを
ただひとり、彼女だけはアイしてるから________。





悟「…っA!?」

『…さとル君、ば威バイ。違ゥ世界でアゑタナら。』



Aの身体は、段々と形を変えていく。
おどろおどろしい呪いを纏って、人形を捨てていく。

六眼が、幻覚を映し出す。
小さな女の子が、悟に手を伸ばす。




『そのときは、あそんでね。』

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