アトリエに残された櫻 (ページ49)

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「個展はどこでやるか決まってる？」

翔くんが聞く。どこだったか、かつてマネージャーが話していたことを思い出して俺はそれに答える。

『あぁ、予定としては一駅先の美術ホールって言ってたよ』

「一駅先……あそこかな。だとしたら結構大きいんじゃない？」

心当たりがあるらしく、翔くんは首をひねって問いかけた。

『そうなの？俺、よく知らないや』

「え？会場を見に行ったりしないの？」

俺は行ったことないところだったから、その話には乗れない。そのおかげで細かいことを考え過ぎずに作品を作れていると思っている。

『うーん…その内？』

「ふふふ、曖昧だね」

『だってさーまだ先の話だし』

なんて、余裕ぶったぼやきをしてみた。本当のことを包み隠さず言うと、真面目すぎて恥ずかしくなってしまう気がした。

「そっか、時間なんてあっという間に過ぎるから出来ることはすぐにやっておいた方がいいよ」

さっきまで笑っていたその顔が、一瞬消えて優しい顔に戻った。

『……そうかな。知らなくても、それはそれで良い気がするけど』

「まぁ、智くんなりの考えに従えばいいよね」

でも、一回見ておくのは一理あるかもしれない。ちょっと検討してみようかな。

『……あ。自動販売機ってどこにある？喉渇いちゃった』

いい感じに途切れた会話によって、飲み物が飲みたいという全く違う感情が現れた。唐突すぎるのは分かっていたけど迷うよりも早く口に出していた。

「ははは、唐突だね。いいよ、一緒に行こう」

案の定、唐突だと言われ笑われてしまったけれど何でもいい。翔くんの笑った顔は好きだから。

一緒に行ってくれることにわくわくしながら椅子から立ち上がり、ベッドから降りた翔くんと並んで病室を出た。