アトリエに残された櫻 (ページ42)

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「ちょ……えぇ……」

突然立ち上がったと思ったら、病室を飛び出して行ってしまった智くん。俺もニノも止める暇がなく、その風のような姿を目で追うことしかできなかった。

離された手は空気を掴み、先ほどまであった体温を無かったことにしていく。

嫌われたわけではない、はず。

智くんが立ち上がった時、見えた顔は嫌な顔ではなかった。むしろ、お宝を発見して目を輝かせている……そんな顔。

「なんなんでしょう……あの人」

依然として困惑している様子のニノはちょっと怒っている。ついさっきまで智くんが座っていた椅子に今度はニノが座った。プリプリしている顔もかわいい。

「あのなんだかよく分からない人のどこが良いんですか」

『良い人だよ。今のは……たまたまだよ』

ニノはどうやら俺の知らないところでも根回ししてくれたみたいだ。勝手にスマホを取り上げられてLINEされていた時は怒りが込み上げるほど驚いたけれど、そのおかげでこうして智くんと仲直りできたんだから感謝しなきゃ。

「あなたが良いならいいですけど。じゃあ、もう逃げないですよね？」

『え？』

「治療。そのために彼を呼んだんですから。彼のためにも頑張りましょうね」

ニノの黒い笑顔を見た。