アトリエに残された櫻 (ページ41)

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高揚感を胸にアトリエへと足を急ぐ。急ぎすぎてほとんど走っている状態だった。

俺はこの時何も考えていない。いや、考えていないというより、浮かんだアイディアを見失わないように捕まえていることに必死で何も考えられなかった。

はぁ……はぁ……。

すっかり息を切らせて、ようやくアトリエに辿り着く。ドアの前でドアノブに手をかけながら呼吸を整える。頭の中でさっき浮かんだ最高のアイディアを忘れていないことを確認し、大きく息を吸い込む。

よし、仕事だ。

ギラリと目を光らせて芸術家としてのスイッチを入れる。よく馴染んだその空間で手慣れた準備をしてアイディアの描き起こしに取り掛かる。ここまではいつもと同じなのに、いつもと違うみたいな高揚感に包まれていて、水を得た魚のようだ。

真っ白で何もないキャンバスに彩りを与えるべく、色を生み出す。今回は絶対的な自信があるが故に特にこだわって色を作っていく。

きっともう二度と作れない。絶妙なバランスを探して、これだと思う色に仕上げた。

そっと出来上がった色をキャンバスにのせる。最初の色はいつだって緊張して丁寧に塗りたくなる。まぁ、すぐに雑になっていくのがいつもなんだけど。

だけど、今回は違った。

雑になることなんてなかった。いつまでも、変わらず丁寧に描くことをやめなかった。それだけ、力の入れ具合が違っていた。

これは、良い作品が出来そうだ。

嬉しくなってつい、口元が緩む。

本来の姿を取り戻したかのような俺はそのまま何時間もキャンバスに向かうことになるのだった。