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デジャブのように先を行く二宮先生の後ろをついて行く。俺は急に噴き出してきた手汗を必死にズボンに擦り付けて、若干挙動不審になっていた。さっきの決意も一歩一歩翔くんの元へ近づいていると思うと……ドキドキしてきた。
今すぐにクルリと方向を変えていち、にの、さんで一目散に走り出す、なんて妄想を繰り広げたい思いだ。
「ここですよ、どうぞ」
あくまで案内するだけ、とでも言いたげに扉の横に立つ先生。大事なところはきちんと自分でやれって事か。
また噴き出してきた手汗をもう一度拭って、扉に手を伸ばす。
あぁ、怖い。この扉の向こうには俺の知らない翔くんがいる、そんな気がしてならない。その翔くんは俺を許してくれるだろうか。
どんな顔をして会おう、なんて言って入ろう、と考えた所で俺のものではないクリームパンみたいな手がにゅっと入ってきては俺の手を掴んだ。
「そんなに緊張する必要は無いですよ」
『っ、ぁ』
「ですね」、そう苦笑いしようとしたのも束の間、ガラッと一気に目の前の扉を開けられてしまった。
.
「智くん……」
『あ……えと、こんにちは』
驚いているのか、会ってしまったと悲しんでいるのか、どっちとも言えてどっちとも言えないような、そんな表情をしている翔くん。海で見かけた日からどのくらい経っているのか分からないけどあの時よりも元気が無くてあの時より痩せているような……そんな気がした。
「じゃあ私はこれで」
『えっ帰っちゃうんですか』
そそくさとこの場を去ろうとする二宮先生。なんかズルいと思って思わず振り返る。
「だって、2人で話したい事でしょ？したい話は」
確かに……そうですけど。
「そういう事なので、ごゆっくり」
ふらり、と出会った時のようにまた二宮先生が去る。歩く度に揺れる白衣の裾がなんだか美しく感じた。
その姿を呆然と目で追ってしまって、我に返ったのはその姿が見えなくなった時だった。
『翔くん』
漸く中に入って翔くんのベッドへ駆け寄っても翔くんはまだ、俺が見たい表情を見せてくれない。
『翔くん、あのさ』
「……どうして来たの？」
『……え』
「俺は会いたくなかったよ、貴方に」
目を逸らしながら言われたら、俺は何を言ったら良いのかわからなくなってしまった。
《I'm happy when I'm with you》
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作者名：フレンチ糖スト | 作成日時：2022年2月6日 21時
