アトリエに残された櫻 (ページ4)

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『……っ！』

気がつくと、眠ってしまっていた。反射的に外を見れば、空はもう真っ暗だった。

あぁ、またやってしまった、と自分を批難する。

ふと、昼間に描いた途中の絵を見た。窓から差し込む月の光に照らされて描いた時とは違うものに見えた。それはまるで夜の海の中から月の光を見ているかのようで、白いキャンバスに暗い色が塗られているから世界が逆転したみたいな印象を受けた。

そうか、色を反転…………。

海、と言えば青だろう。でも、そのままじゃありきたり過ぎて面白くない。だから、敢えて色を反転させて描いて海の印象をガラッと変えてしまおう。海とは思えない、明るくポップな海にしてしまおう。

元々海は俺の大好きな場所で、俺の庭と言っても過言ではない。いや、それは言い過ぎか。でも、俺の庭を描く様に俺の海を表現しよう。なんて事はない、ただ俺の好きな海を描けば良いんだ。

そうしてパッとした思い付きで描きかけのキャンバスに再び色を乗せていった。勿論、青色ではなく全然真逆の黄色や赤色。暗い色ばかり使っていたからぐちゃぐちゃにならない様にだけは気をつけて、月の光に照らされた海の中を俺の色で表現していく。

月が希望の様に、海の中が新たな挑戦を応援する様に、、、

自分自身が海の中へ飛び込んだ気分で、ふわふわ、ゆらゆらしながら描いていく。あぁ、月の光はどうしよう。絵の具で塗ってしまっては良い感じに仕上がる気がしない。なら、上からスポットライトを当てれば、今と同じ雰囲気になるだろうか。敢えてハッキリと月の光は描かずに色を乗せた。

月が真上を通り過ぎて、段々と光が部屋に入って来なくなった頃、漸く納得出来る俺の海が完成した。

部屋の中が暗過ぎて何も見えなかったので、アトリエの電気を付けてその絵の完成を見ると、何とも言えないヘンテコな絵になっていて思わず笑ってしまった。これを誰が「海」と見るだろうか、最早子供の落書きかのようで笑いが止まらない。

『あはははははははははは！！』

アトリエ内に奇妙に轟く不気味な笑い声。完全にツボっていて自分では止められない。

はー、と一頻り涙が出るほど笑ったところで絵の具が乾くよう、キャンバスを部屋の隅に置き直した。一緒に置いてある絵はどれもここ数日で無駄にした描きかけの絵達だった。

俺はこのヘンテコな絵を個展の作品第一号に決めた。