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突然目の前に現れ、“話がある”と告げたその医者は俺を置いてずんずん先を行く。遅れないように慌ててその後をついていくと、診察室に入っていった。
「どうぞ、座ってください」
戸惑いながらもその診察室に入れば、先に入って椅子に座った医者がそれらしく出迎える。こうしてみると医者らしい威厳が見えてくる気がした。
勧められた通り、医者の前に置かれた椅子に座ると医者は改めて俺に向き合い、名前を名乗った。
「私は外科の二宮です。翔さんの主治医をしています」
翔くんの担当……。そうか、彼は本当に。やっと、何処か夢心地だった話が現実味を帯びてきた。
『あっ俺は…』
「大野智さん、ですよね？」
『っ、はい』
先に言い当てられてしまった。いや、二宮さんは確証があったような言い方だった。
『あの、どうして名前を……？』
「翔さんから色々相談されてますから。あと、貴方絵を描いているでしょう？自分の絵の価値をもっと大きく見た方が良いと思いますよ」
もっと大きく……？とにかく俺の作品を知っている人、という事か。
「話、して良いですか」
『ぁあ、はい』
せっかちなのか、時間が無いのか、早々に話を始めようとする彼はさっきからずっと難しい顔をしている。難しい顔を、というより機嫌が悪い、と言った方が正しいかもしれない。その理由が分かるような、分かりたくないような不安と緊張を抱えて彼の言葉を待つ。
「翔さんが患っているのは知ってるんですよね？」
『……はい』
やはり、その話。
「何の病気なのかは聞いてますか？」
『……知らないです』
「ですよね。貴方を呼び出したのはその説明をしたかったからです」
“呼び出した”……？
『相葉くんに連絡したのは貴方だったんですか？』
「そうですよ」
サラッと答えた。翔くんからの連絡だと信じて疑っていなかった俺が今、裏切られ、打ち砕かれた。という事は彼は俺に会うつもりは全く無いという事なんだろうか。
「安心してくださいよ、貴方に連絡するよう勧めても翔さんが渋って全然しないもんだから代わりにやっただけです。本当は会いたいくせに」
まるで人の心を見透かすように彼が言う。飄々とした印象の彼は相手も周りも自由に操っていそうで、ちょっとだけ怖い。
「さて、本題ですよ。彼の病気なんですが……」
そう、彼が話し始める。翔くんの事を。
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作者名：フレンチ糖スト | 作成日時：2022年2月6日 21時
