アトリエに残された櫻 (ページ20)

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雨降りも悪くない。

普段は夜道を歩くのは得意じゃなくて、夕方になれば必ず引きこもっていたけれど今日はなんだか夜道が丁度良い。今日は雨が降っているから余計に出たくないはずなのにな。

それは、見たくないものが見えないからかな。

そんなことを思いながらいつもの海沿いを歩く。差した傘には雨粒が当たって心地良い音を奏でる。周りの音を消してくれているみたいで安心した。

時々車がヘッドライトを点けて俺の横を通り過ぎて行くと、少しの水飛沫が飛ばされた。「うわっ」と思いつつ、避けるのがちょっと楽しく思えてきた。

後ろからでも前からでもやって来る車に太刀打ちするような気持ちで歩いて行ったが、コンビニに到着する頃にはズボンの裾は濡れていた。

結局どこも濡らさずに到着する事は叶わず、いつからそんなゲームになっていたんだ、と心中笑いながら爛々と眩しく光るコンビニへと入っていった。

車のヘッドライトに照らされる事はあったけれど、それは一瞬。ずっと浴びさせられる蛍光灯の光はヘッドライトとはまた違った眩しさがあって、思わず顔を顰めた。「いらっしゃいませー」と掛けられた声をそのままに、俺はふらりと一番奥のドリンクコーナーへ行く。

水ばっかり飲んでいた喉に味を与えようと水以外の飲み物を選んだ。俺が選んだのはメロンソーダ。飯を食べるつもりなんだし、そんな甘ったるいジュースじゃなくて麦茶とか緑茶とかそーいった落ち着いた味の方が良かったんだろうけど、俺は刺激が欲しくてそれにした。多分後で後悔する。

この雨で、俺以外の客がほとんどいない店内は外の雨音とは裏腹の静けさだった。スピーカーから聞こえて来る新商品を紹介しているらしい店内放送は、まるで深夜ラジオのように穏やかに耳に届いてゆったりとした時間が流れているのを感じた。

欲望のままに買ってしまおうとパンやらおにぎりやら弁当やらをカゴに入れると、こんなに食いきれない気がして迷った。でも、今日食べ切らなくても良いやという結論に至ったが故にその全てを買ってしまった。

「温めますか？」と聞かれたが、その弁当をはじめに食べるかどうか分からなかったから、温めずに会計を済ませて再び雨の中へと出る。

と思ったらいつの間にか雨は止んでいて、なんだかじめっとした空気に変わっていた。コンビニの快適さを失い、少しの不安がよぎった。