アトリエに残された櫻 (ページ18)

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アトリエに戻ってくると、どこか心が落ち着いた気がした。いつもの調子を取り戻そうとキャンバスの前に立って何かを描こうと思ったけど、やはり何も浮かんでこない。

そうなれば前みたく適当に色を塗り重ねてみよう、と筆と絵の具を探して周りを見渡すが、床にはいつものように乱雑に置かれたそれはない。

俺はそれらを綺麗に仕舞ってしまったせいで出してくるのがめんどくさい。だから、また描くのを諦めてしまおうと思ったのだが、今日はなんだか諦めが悪い。

適当に太い筆と細い筆を取り出して、絵の具を選ぶ。コンセプトを変えずにいくなら、どんな色だって良いはずだ。

どんな色…どんな色……どんな色？

どんな色だって良い、という上限も下限もない選択肢の多さに散々迷った挙句、俺が選んだのはカドミウムレッドという真っ赤な色。なんとなくこれが良いなと思って選んだ為、ここからどう描きだされていくのかは俺にも分からない。

カドミウムレッドをメインに他の色をほいほいと取っていって、漸くキャンバスに向かう。

むちゅっとパレットに出したカドミウムレッドは、まだその色本来の色でパッケージに描かれた色よりも多少濃い。他の色も同様に出して、並べられた材料達を一望する。そこからどんな色に混ぜるか、どう色を置いていくのか、頭の中でイメージする。

赤色といえば、真っ赤に燃える炎や見事に熟れたりんごとかそんな物くらいだ。

……海とは程遠い色。

それを一体どうやったら海として表現出来るんだろう。自分でその色を選んでおきながら、全く分からない。全く分からないけれど、取り敢えず塗っていかないと作品なんて出来ない。

少し悩んで、カドミウムレッドとピロールオレンジを混ぜる。太い刷毛で取ったそれをキャンバス全体に塗っていく。

すー、とんとん。すー、すー。

そんな風にリズムを取るように塗っていったら、だんだん楽しさを感じられるようになって、俺は時間を忘れて作品作りに没入していった。