アトリエに残された櫻 (ページ1)

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第5章《苧環の花言葉》ページ1

約束の日が過ぎて、もう1ヶ月が過ぎた。

あの日以来…いや、あの日は会えなかったから…最後に会ったのは約束の日でもない、二人で遊びに行った日…が最後。

彼は今頃、何処で何をしているのか。どうして、あの日姿を現さなかったのか。

何か事情があるのなら、そのすぐ後にでも言いに来てくれれば良いのに、そういう事は一切無い。本当に今日まで彼の姿を一度も見る事なく過ごしてしまっている。

俺のこの1ヶ月はただ、虚無感と底知れぬ不安に苛まれた日々だった。

突然行方知れずとなった彼を探し、様々な場所を訪ねたが何処にもそんな姿は見られなかった。思い当たる場所、こんな所に居るとは思えないが、彼が居るかも知れない場所。一番出会いそうな相葉くんの店へは毎日通った。

その度に、相葉くんは何か苦しそうな表情をした。

相葉くんが何かを知っている事はその分かりやすい表情を見れば、俺でも察しが付く。でも、それでも彼に知っている事を聞き出すのは躊躇われた。出来なかった。

まるで、俺の中の何かが必死に警告のベルを鳴らしているかのように煩くて、しつこく俺の口を塞いでくるから声を出したくても出せやしない。

漠然とした不安が恐怖として広がるだけだった。

そんな日々も、1ヶ月が過ぎた事で徐々に諦めるようになってきた。次第に探す場所や回数が減り、毎日のように通った相葉くんの店へも、最近は3日も行っていない。

翔くんの事は、夢から覚めるように忘れた

夢のような日々、束の間の幸せ

そうだ、あれは夢だ

夢なんて、覚えていないものが殆ど

だから、これも夢として忘れてしまえ

忘れて仕舞えば、こんなに、こんなに……。

自分に言い聞かせて、忘れるようにしたんだ。そうして、気を紛らす為にキャンバスへ向かった。そうしていたら、今までずっと何も描けないと嘆いていたのが嘘のように、集中して描くことが出来た。

あぁ、あれは悪夢で、悪夢が幸せな夢に変わって……なんてなんの生産性も無い事をふわふわ考えていたが、本当に何にもならなかった。

意味が無い、何をしても、意味が無い。

俺が集中して描いた作品は、集中していたはずなのに俺らしくも無い、どんよりとした絵ばかりでとても作品として出せはしなかった。

俺の、今の気持ちをよく表している。

ハァ…………忘れて仕舞えば、こんなに苦しまずに済むのに……。