アトリエに残された桜 (ページ26)

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第3章《アネモネの花言葉》ページ26

ものの数日でぐんと距離が縮まっていった俺たちは仕事があってもなくても時間を見つけては一緒に出かけていた。それは遠くだったり近くだったり長い時間だったり短い時間だったり、と様々だったがそのどれもが最高に楽しかった。

一生付き合える、最高の友人だとも思えた。

そんな夢のような日々を過ごして約1ヶ月。肌寒かった3月が終わりを迎え、ポカポカと暖かな日が増えた。

ある日。俺たちはいつものように会って「今日はどこへ行こうか」という話をしていた。最近、頻繁に会い過ぎて段々とレパートリーがなくなってきてしまい、2人とも「うーん」なんて唸っている。

「あ、そうだ」

パッと翔くんが思いついたように口を開いた。俺は翔くんが何を言うのか、今日はどこへ行けるのか、少し期待を膨らませて翔くんの話を聞く。

「前に言ってた桜の綺麗なとこ行こう、ってやつ。あれ、もうすぐ行けるんじゃない？」

『あー…言ってたね』

「桜、どんな感じか見ておくよ」

『うん、じゃあ今度は花見だね』

「うん！」

前に話した「花見に行く」という有耶無耶で終わりかけていた約束が固まり始めた。花見で何をしよう？どんな桜が咲いているだろう？そんな想像を膨らませると今日は何をしようか、なんて考えから意識が薄れていった。

ぽや～っと頭の周りに花が咲き始めたところで翔くんが、

「あ！今日はケーキ屋さんに行こうよ！」

『け、ケーキ屋さん？』

唐突な翔くんの発言に驚きが隠せない。思わず聞き返すと翔くんが楽しそうに言った。

「そう！入ったことないんだけど、美味しそうなお店見つけてさ！いつか行こうと思ってたの！」

ケーキかぁ。甘い物、嫌いじゃないし、というか寧ろ大好きだし。翔くんも好きなのかな？甘い物。

ふわふわそんなことを考えて俺は大きく頷いた。

『うん、いいね！俺、甘い物大好きだよ』

「良かったあ。あ、店の場所確認すんね」

さささっとあっという間に翔くんがここからケーキ屋さんへの道を調べてくれる。俺はその間、何を食べようかなあと呑気に考えていた。

慣れた様子でスマホを操作する翔くん。そういえば俺たちは出会ってこうして遊ぶようになっても連絡先の交換なんて全く考えていなかったなあ。

ぼんやり、そんな事を考えて翔くんの手を見つめていた。