アトリエに残された桜 (ページ25)

今日:16 hit、昨日:10 hit、合計:32,289 hit

14. ページ25

絶対にバレていると分かっていながら否定してみる。

『えっと…』

やってあげようと手を出し、場所を入れ替わろうとすると、

「ねぇ、智くん今度は俺にやらせて？」

『お？もちろん』

出した手を引っ込め、口頭で教えることにした。

『竿を持ち上げたりしながらリールを巻いて…』

おぼつかない手際でリールを巻き、俺に言われた通りに竿を動かしている翔くんを見て、代わりにやってあげたくなったけれどグッと堪えて見守る。

パシャ！ピチピチ

「わあ！釣れた釣れた！釣れたよ！智くん！」

『わあ、良かったねえ翔くん』

まるで自分の子供を見るかのような眼差しで翔くんを見ていた。嬉しそうに魚を見せてくれる翔くんが可愛くて可愛くて緩んだ頬が戻らない。

「これはどうやって外したらいいの？」

『それはねえ…』

同じく口頭で教えてやると今度は釣り上げる時以上にもたついていてなかなか苦戦していた。ちょっと、かわいそ…。

『…2回連続でゲットだね！』

何もなかったように話を切り替えて振ると、翔くんも明るく話し出す。

「うん！初めてだけどなんか楽しいね！これ」

釣りの楽しさが分かってくれたようで俺も安心した。

「…これからも、智くんと色んなところに行きたいな」

不意に翔くんが言った。

『…だね。俺も行きたいな』

「あっじゃあさ、今度桜を見に行こうよ！もうすぐ咲き始めるでしょ？」

『おぉ！いいね！花見しよう！』

そうだ、今はまだ暖かくなってきたばかりの3月。3月といえば寂しかった桜の木が漸く蕾を開かせ始める月。2人で満開の見事な桜を見に行けたら、楽しいだろうな。

「桜の木がいっぱいある、良いとこ知ってるからそこに行こうよ」

『いいねぇ、もう少し暖かくなったら絶対行こうね』

「うん、絶対」

ポチャンと再び浮きを落として言う翔くん。また、会う約束が出来たと俺は心が躍っていた。桜を見に行く前に何回翔くんに会うのか、何回翔くんの隣を歩くのか、なんて全然予想がつかないけれど桜を見に行くまでに一回くらいは会ってもっと仲良くなっていたいとは思う。そして、2人で桜をたっぷりと楽しみたい。んで、翔くんと1番の友達になる。そう強く思った。

翔くんに友達以上の感情を抱いているにも関わらず、俺はまだそれに目を瞑っている。

《Days to soothe the mind》