アトリエに残された桜 (ページ24)

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13. ページ24

海に釣り糸を垂らして約1分。
自然と無言になった状況に耐えられなくなったようで翔くんが話しかけてきた。

「智くんはよく釣りに来るの？」

『少し前までは本当に頻繁に来てたけど、ちょっと忙しくなってからはあんまり来てないかな』

「そっか、じゃあ久しぶりの釣りなんだね」

『そうそう』

「…」

『…』

「どんな魚釣ったことある？」

『何だろうなぁ、アジ…とか？』

「へえ」

『…』

「…」

一問一答みたいな会話でしか続かない会話はフェードアウトしていった。話題を振ってくれた翔くんには申し訳ないけど、釣り糸の先に集中させてもらう。

集中モードに入った2人はただジッと海にぷかぷかと浮かばせた浮きを見ている。遠くからはカモメの声なのか、物語の世界に迷い込んだかのような音が聞こえてくる。

ジッと黙って随分、長い時間が流れたような気がしてきた頃漸く。

「ぅあっ！なんか掛かったよ！」

『お！やったね！』

「ど、どどどうすればいい！？」

急に掛かったことで翔くんがテンパりながら俺に説明を求めた。俺は一旦竿を置いて翔くんの手助けをする。

上手くリードを巻いて持ち上げるとその先にはまんまと餌に引っ掛かったアジがいた。

「わ～すごい！釣れたよ！」

『翔くんやったね～』

アジを針から外し、新しい餌を付けてあげてルアーをほん投げる。ポチャンと小さな音を立てて浮いた浮きを確認して翔くんへ手渡すと

「なんでもやってくれるね、ありがとう」

尊敬の眼差しでキラキラと見つめられるとなんだか照れてしまう。翔くんは本当に褒め上手だな。

さて、俺も。と竿を持ち直して魚を待った。

再び無言が訪れたが、今度は翔くんも集中しているようで話しかけてくることはなかった。

お互いに集中して釣り糸の先を見つめ、時々動かしてはジッと魚が来るのを待っている。こんなに無言なのに気まずいとも何とも思わないのは魚との心理戦がそうさせているんじゃないかと思う。

ゆらゆら揺れる浮きを見ていたらなんだか眠くなってきた。うたた寝している間に餌を喰われていたら取り逃してしまうけど、釣りの途中でうたた寝してしまうのもある種、釣りの醍醐味だ。

うつらうつら、首が揺れ始めて瞼が開けなくなってきた頃、翔くんが突然

「あっ！また掛かったよ！智くん！」

『んえ？』

「え、智くん寝てた？」

『…んにゃ、寝てない』