アトリエに残された桜 (ページ21)

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目に見えてガッカリした様子がバレたようで、

「もーおーちゃん、翔ちゃんがいないからってガッカリしないでよー！」

と、相葉くんに言われてしまった。

『いやいや、ガッカリはしてないよ』

ちょっと見栄を張って否定してみるものの、きっと誤魔化せていないだろう。

翔くんがいなくとも、訪れたからには何か食べていこうと今日は厨房に1番近い席に座る。此処からだと厨房で忙しなく働く相葉くんと松潤の様子がよく見えて寂しさが少し和らいだ。

「ご注文は何にします？」

相葉くんが注文を聞いてきた。俺はメニューを見て折角なら此処のメニューを全て制覇してみたい、と食べたことのないメニューを選ぶ。

『うーん…今日は酢豚にしようかな』

「はーい」

『あ、ついでに杏仁豆腐も付けて』

「了解」

ピッと軽く敬礼を付けて厨房へ消えていった相葉くんを見送りながら改めて店内を見回す。

良いお店だな……。

今日はまだお客さんが少ないが、食べているお客さんを見ているとどれも美味しそうに見えてくる。相葉くんや松潤が作った料理がこんなにも人を幸せにしているんだと思うと何故か俺は嬉しくなった。

そんな風にボーッと店内を見ているとあっという間に相葉くんが料理を運んできてくれた。

「お待たせしました、酢豚と杏仁豆腐でーす」

『おぉー美味しそう』

「ごゆっくりどうぞ」

『いただきまーす』

ほかほかと湯気が上がるつやつやな酢豚と真っ白で見るからにぷるんぷるんな杏仁豆腐を見てそれまで大人しかった食欲が急に顔を出してきた。

箸を取って早速一口、あまりにも熱々で冷ましてから食べれば良かったと軽く後悔。でも熱さに慣れて味を感じるとトロッとしたソースの甘酸っぱさとお肉のジュワっと広がる肉汁の旨みが良いバランスで組み合わさっていて、なんというか噛み合わせの良いファスナーの様だった。

ファスナー同様、酢豚の美味さに俺の口も閉じて黙々と食べていくといつの間にやら皿の中は空っぽになっていた。え、こんなに腹減ってたっけ？と、食欲を引き出すこの店の料理に驚きながらデザートにとっておいた杏仁豆腐に手を付ける。

スプーンで掬った杏仁豆腐は想像通りのぷるぷるで揺れる白い固体からふわっとミルクの匂いがした。食感は多分、歯も要らないくらいだけど噛んでみればちゃんと杏仁豆腐があって仄かなミルクが凄く美味かった。