アトリエに残された桜 (ページ20)

今日:2 hit、昨日:13 hit、合計:32,383 hit

9. ページ20

「智くん！」

突然声を掛けられて反射的に振り向く。

「また、遊びに行こうね！」

キラッキラの笑顔を輝かせて翔くんが手を振る。
そっか、会えるのは今日だけじゃない。今日が終わるのは寂しいけど明日になればまた今日みたいに遊びに行ける。明日が無理でもまた、都合が合う時でいい。

俺は翔くんの笑顔に応えるように笑って同じように手を振った。

『うん、また行こうね！』

今日は良い日だった。

翌日。

昨日の盛り上がりを思い出しながら起き上がると、まだあの時の高揚感が脳裏に焼き付いてひとりで笑ってしまう。

同時に昨日が楽しすぎた分、心にポッカリ穴が空いたような気分になって寂しさが込み上げる。

今日は、彼は来てくれるだろうか。

仕事が一段落ついているので今日も遊びに行けるのだが……。

なんて期待を持ちながらなんとなく思いついたものを落書きしているとネタがすぐに尽きて手が止まってしまう。描きたいものがもうなくなってしまった。まだないかな、もうないかな、まだ、まだ…

はあー！

ゴロリと床に寝っ転がって足を投げ出す。すぐに飽きてしまって時間があまり経過していないのが残念だ。

早く…来ないかな…。あ………。

と、気付いた。待ってるだけじゃ暇だから自分から行けばいいんだ…！

あ、でも翔くんがどこに行くかなんて相葉くんのお店ぐらいしか知らないのか。そうなると、相葉くんの店にいなかったらもう、翔くんがどこにいるのかどこへ行くのか分からない。

だったら待っていた方が…。

いやいや、俺そんなに翔くんに会いたいのか？翔くんだって忙しいだろうにそんな毎日毎日俺に付き合うなんて悪い。

だから、そうだな。行ってみて会えたら嬉しい…。それくらいに思っておこう。行って、もし会えなかったら軽く落ち込みそうだし。

うん、軽く軽く。

そう言い聞かせて俺はアトリエを出た。向かう先は相葉くんの店。今、翔くんに会えるかもしれないと思える唯一の場所。

居るかな、居るかな……

軽い気持ちでとは言いつつ、やっぱり店の扉を開けたらそこに翔くんが居ることを期待している。不安と期待が入り混じったまま、扉を開けると……。

.

.

.

「あ、いらっしゃい。おーちゃん」

残念ながらそこに翔くんはいなかった。