アトリエに残された桜 (ページ2)

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第1章《プリムラの花言葉》ページ2

スランプになった。

俺は、今までどうやって絵を描いていただろう。
どうして、絵描きなんかになったんだろう。

確かに、絵を描くことは、“たのしいこと”だったはずだ。

いつからそれが、変わってしまったんだろう。

そう思いながらこのアトリエでぼうっとしていた。

染み付いた絵の具の油の匂いが前は、心地良かったはずなのに、今は忌々しく思えて仕方がない。
真っ白なキャンバスを目の前にして俺の頭の中はもうどす黒い色でいっぱいだった。
まだ先ではあるが、確実に期限に近づいている"仕事"がある。

これは、それだ。

このままぼうっとしていて何時間が経ったんだろうか。最近、描けなくなってきていたのは感じていたが、"仕事"に合った絵は描けていたから無視していた。

だけどもう、それも描けない。

何も思い浮かばない。きらきらしない。

だったらいっそ辞めてしまった方が良いんじゃないか。

そう思い始めた。
俺の他にも天才的な絵描きなど、いくらでもいる。
俺1人が消えたって、世界中に影響が出る訳ではない。

俺がいる意味なんて、きっとない。

だから_______________消えてしまおう。

と、その時この部屋の唯一の窓から恐ろしくキラキラした朝日が差し込んだ。これを見て何かを描ける俺はもういない。まるで俺に期待するクライアントみたいだ。
あ、もう夜が明けたのか。これで締切まであと1週間を切った。

ハァ、何か食べる物を買いにでも行くか。

何日振りに外に出たんだっけ。最後に出掛けたのは…分かんね。そんくらい籠ってたんだな、それなのに何にも出来てないんだな。思わず、溜息ばかりが出る。

此処は海の近く。
俺が自分専用のアトリエを建設する時に海の近くがいいと言って譲らなかった功績でこんなに眩しく輝く海のすぐ近くに小さなアトリエを構えることが出来た。

アトリエに来たら何日も籠って窓から見える海なんて見やしないから『意味あったんですか』とマネージャーに言われたが。

久しぶりに外に出たら砂浜沿いを海を眺めながら歩くという楽しみを見つけたんだから良いんだよ、と口にはしなかったがそう思った。

そう思ったんだがな。
今やそんな海の輝きなんて眩しすぎて目がチカチカする。海にもイライラしてしまうなんて俺は相当キテるな。早く何か食べるもんを買って帰って、一回寝るか。

寝たら、調子が戻るかもしんねぇし。