ちょっとだけ。 ページ43
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｢…なあ、知っとるか、雨宮｣
｢なん、ですか｣
未だ泣きやめない目を拭おうともせず、ただ北先輩の方へ視線を遣る。
｢人ってな、自分を好きになれると、昨日よりちょっとだけ強くなれるんや。
昨日を振り返っても今には何も残らん。でも今、昨日より自分を好きでいられたら。
昨日より、ちょっとだけ強くなれる。
そうやって少しずつ自分を好きになっていけば、段々、どんどん、人としての強さを持った自分になれる｣
――ちょっとずつでええ。せやから昨日よりちょっとだけ、強い自分になってみい。
昨日より、ちょっとだけ強い、自分。
｢…そうしたら、私は、北先輩みたいになれますか｣
｢他人目指してどうするんや。大事なんは自分がどうなるかやろ｣
…ここで正論パンチかまします？普通。でも。でもね、北先輩。
｢それでも私は、北先輩みたいな人になりたい｣
私の言葉を聞いた北先輩が目を見開くのが、揺れる視界に映る。
…私も、北先輩みたいに。
｢物好きやなあ、雨宮は。でも、せやなあ。俺はまだ、完璧に自分を好きにはなれてへんけど。
でも雨宮と一緒なら、強うなれる気いするわ。
…一緒に、頑張ろか｣
嗚呼、まただ。
北先輩は、一緒に頑張ろうと、ひっきりなしに口にする。
一緒に。
心強いその言葉。
｢…はい。私も、北先輩となら、強くなれる気がします｣
北先輩となら。
心のどこかで、何かが花開く。
まだ意味は知らない。ただ、自信があった。
この人となら私は無敵になれるんじゃないかと。無敵でかっこいいヒーローになれるんじゃないかと。
本気で、そう思った。
未だ、雨は降り続く。でも空は晴れていて、不思議で、神秘的で。そんな、空模様の中を。
北先輩と、傘もささずに足を弾ませる。
落ちていた傘は、北先輩が折りたたんで鞄にしまった。
私からしてみれば充分に背が高い北先輩を見上げながら、明るい太陽の光を浴びる。
｢はは、私達、明日には二人して風邪ひいてるんじゃないですか？｣
｢せやろなあ。こんな雨の中や｣
カーディガンが張り付いて気持ち悪い。髪が頬にしがみついている。
でも。
なんだろう、なんだか。
｢先輩、私、なんか俄然無敵な気分です｣
どうしようもなく楽しくなって。北先輩の少し前へ歩みでる。
…嗚呼。
北先輩の後ろで、猫が笑う。
…ねえ。
名前が分からない感情が、渦巻いているんだ。
神様。
明日は、晴れますか。
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はるか(プロフ) - この作品のことではないんですがブスの愛で方はもう公開されないんでしょうか？ (2023年2月25日 13時) (
レス) id: aa3e2fb3e0 (このIDを非表示/違反報告)
サラミ - なんかもう…本当に胸が痛かったです…なんでそんなに感動する文章かけるの…？という感じでした。辛いし、気持ちが凄くわかるし、頭がうああってなって(語彙力)気づいたら大号泣していました。本当に素敵なお話をありがとうございました。 (2023年1月18日 22時) (レス) @page50 id: 82adb6822c (このIDを非表示/違反報告)
小桜(プロフ) - 北さんもいい……！ めちゃくちゃにやけました！ (2022年10月23日 0時) (レス) @page50 id: 8b4a915ba2 (このIDを非表示/違反報告)
お布団 - 何回ワシをにやけさせんねん！！ (2021年11月28日 10時) (レス) @page50 id: e77bb3532f (このIDを非表示/違反報告)
リンネ(プロフ) - 私、恋愛をした事なくて恋愛小説をどこか違う世界のものとして読んでました。でもこの小説は、感情移入してしまって雨宮の｢自分が嫌い｣という感情が私と重なって泣いてしまいました。あなたの言葉で救われた気がします。ありがとうございます。 (2021年7月5日 2時) (レス) id: 2b6f27f6e1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：お水。
| 作成日時：2019年8月16日 11時
