スロースターター。 ページ26
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｢前見たら、雨宮が、おるなあ…｣
涙を溜め込んだ瞳で見つめられる。
嗚呼、綺麗だ。綺麗な分、泣いたら勿体ない気がしてしまう。
｢…そうですよ、私がいます。大丈夫です、北先輩。北先輩が、私の捌け口になるって言ってくれたみたいに。
北先輩が辛いときは、私が、北先輩の捌け口になりますから｣
だから、頑張りましょう。
北先輩の頬に手を当てる。私の涙を掬ってくれたように、指先で目元に溜まった涙を掬う。
｢…なんや、雨宮も成長してもうたなあ｣
｢はは、何ですかいきなり｣
｢…寂しい、いう話や｣
｢大丈夫ですよ、北先輩を置いていけるほど私は成長出来ません｣
北先輩よりも大人になる、なんて無理な話。北先輩は私の何倍も大人びていて、気付かされることだって多いんだから。
｢ほな、一緒に頑張ろか｣
狐みたいに笑う北先輩の顔に、どうしようもない安心感を覚えた。
嗚呼、なんだろう。
これ、なんていう感情かな。
依存とは違う。友情とも違う。愛情、とも少し違う気がする。
…まあ、今は分からなくても良いか。
｢…ですね！｣
一緒に頑張る、そう言ってくれた先輩と、これから少しずつ歩いていくんだから。成長、していくんだから。
随分と遅い成長へのスタートを切ってしまった。
思春期ならではの感情の混濁が、長期化したからだと思うけど。
｢あー、なんや、俺かっこ悪いわ。散々困惑して、結局ハルへの気持ちが冷めただけやったなんて、ほんま、何やっとんのやろ｣
｢いいんじゃないですか。北先輩、たまに何でもやってのけて怖いんですよ｣
｢ほうか…？｣
｢ほうです｣
｢俺はそこまでかっこええ人間とちゃうよ。只、自分がやってきたことを信じとるだけや｣
…それが、かっこいいんですよ。
自分の経験を信じろ、とはよく言うけど。それが出来る人間なんて極わずかだ。それだけ自分が今までのことに全力を注いできたってことだから。
私は今までのことに自信を持てるほど何かをやってのけた訳でもないし、今の北先輩には尊敬しか出来ない。
…嗚呼、そうか。
尊敬、か。
憧れ、畏敬、尊敬。
嗚呼、なんだ、意外と単純なもの。
｢…じゃあ私も、頑張ってみようと思います｣
多分、目標地点。
｢おん。一緒に頑張ろ｣
一緒に、と笑ってくれる先輩に、私も、思いきり口角を上げる。
｢はい！｣
北先輩はきっと、一生かけて追いかけるべき、高い高い、目標地点。
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はるか(プロフ) - この作品のことではないんですがブスの愛で方はもう公開されないんでしょうか？ (2023年2月25日 13時) (
レス) id: aa3e2fb3e0 (このIDを非表示/違反報告)
サラミ - なんかもう…本当に胸が痛かったです…なんでそんなに感動する文章かけるの…？という感じでした。辛いし、気持ちが凄くわかるし、頭がうああってなって(語彙力)気づいたら大号泣していました。本当に素敵なお話をありがとうございました。 (2023年1月18日 22時) (レス) @page50 id: 82adb6822c (このIDを非表示/違反報告)
小桜(プロフ) - 北さんもいい……！ めちゃくちゃにやけました！ (2022年10月23日 0時) (レス) @page50 id: 8b4a915ba2 (このIDを非表示/違反報告)
お布団 - 何回ワシをにやけさせんねん！！ (2021年11月28日 10時) (レス) @page50 id: e77bb3532f (このIDを非表示/違反報告)
リンネ(プロフ) - 私、恋愛をした事なくて恋愛小説をどこか違う世界のものとして読んでました。でもこの小説は、感情移入してしまって雨宮の｢自分が嫌い｣という感情が私と重なって泣いてしまいました。あなたの言葉で救われた気がします。ありがとうございます。 (2021年7月5日 2時) (レス) id: 2b6f27f6e1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：お水。
| 作成日時：2019年8月16日 11時
