あの。 ページ40
.
「…雨が、綺麗」
晴天。太陽の光を浴びて楽しそうに地面をトランポリンみたいに跳ねる雨粒が、私の瞳に確かに映る。
嬉しそうに笑いながら地面を跳ねる。きゃっきゃとはしゃぎながら、雨粒は四方八方に分散していく。
普段なら曇天の中寂しげに私達を濡らす雨が、今は、晴天の中で楽しげに私達を洗い流す。
明るく開けた視界に青空が映って。それだけで、美しいというのに。
雨粒の中でレンズみたいに空模様を映すのが、今この瞬間、見える気がして。
自然と、心が跳ねる。
「せやなあ。土砂降りいう訳でもないし、このまま帰ろかな」
本当にささやかな雨だった。確かに肩を濡らすけど土砂降りではなくて。だから私達は、傘もささずに歩き出した。
本当に、くだらない話しかしなかった。でもそれが酷く愛しくて、嬉しくて。涙が零れそうになるのを必死に堪えていた。
「…ほなね、A。また明日」
「うん、ハル。また明日ね」
また明日、を笑顔で言える喜びが私の心を幸せで満たしていく。
曲がり角を曲がる、ハルの後ろ姿を見ていたかった。
でも。
"おつかれさん。"
一言だけのメッセージ。
信じていないと書けないメッセージ。
それが、私の足を無理やり動かす。
にゃ、と一瞬猫の鳴き声が聞こえる。足元を通り過ぎた猫が、私の方を見ながら雨に濡れたしっぽを揺らす。
そしてそのまま歩き出すから。
ついて行ってみようか、なんて突拍子もないことを考えたのは仕方がない。
「…ねえ、どこに行くの?」
高校生にもなって恥ずかしい。猫に質問をするなんて。
でもその猫があまりにも嬉しそうに尻尾を揺らすから。つい、ね。
返事も何もしない猫。
突然、風が吹いて、頬に何か紙が張り付く。不快感を覚えつつその紙を取れば、動物園のパンフレットのようで。梟が全面に出された広告に、少し目を奪われる。
しかし気付いたら猫が悠々と随分先を歩いていたため、パンフレットを投げやり急いで駆けようとする。
…でも。
パンフレットから手を離した途端、急に聴覚が異常に働いた。
何か、大切なもの。
大切なものを失う気がした。
…何を?
分からない。でも、違う、違うんだ。分からないけど、大切なもの。
「ふく、ろう…」
自然と、口が動いていた。
でも。
遠くを歩く猫が、こちらを向いて。
にゃー。
と泣くから。
意識を戻し、無理やり足を動かして歩き出した。
1277人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「ハイキュー」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
はるか(プロフ) - この作品のことではないんですがブスの愛で方はもう公開されないんでしょうか? (2023年2月25日 13時) (レス) id: aa3e2fb3e0 (このIDを非表示/違反報告)
サラミ - なんかもう…本当に胸が痛かったです…なんでそんなに感動する文章かけるの…?という感じでした。辛いし、気持ちが凄くわかるし、頭がうああってなって(語彙力)気づいたら大号泣していました。本当に素敵なお話をありがとうございました。 (2023年1月18日 22時) (レス) @page50 id: 82adb6822c (このIDを非表示/違反報告)
小桜(プロフ) - 北さんもいい……! めちゃくちゃにやけました! (2022年10月23日 0時) (レス) @page50 id: 8b4a915ba2 (このIDを非表示/違反報告)
お布団 - 何回ワシをにやけさせんねん!! (2021年11月28日 10時) (レス) @page50 id: e77bb3532f (このIDを非表示/違反報告)
リンネ(プロフ) - 私、恋愛をした事なくて恋愛小説をどこか違う世界のものとして読んでました。でもこの小説は、感情移入してしまって雨宮の「自分が嫌い」という感情が私と重なって泣いてしまいました。あなたの言葉で救われた気がします。ありがとうございます。 (2021年7月5日 2時) (レス) id: 2b6f27f6e1 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:お水。 | 作成日時:2019年8月16日 11時