暗殺者執事 〔 Ｈ×Ｈ 〕

暗殺者執事の初恋 ページ10

人を殺している人達の傍に居たいなんて

きっと思ってはいけない事の筈なのに


お金で依頼を受けて人を殺す事なんて

世間では許される事ではないのに


それを望む自分がいる


親との縁を切ってまで

ここに居たいと思う自分がいる





Aの心はぐちゃぐちゃだった。

殺したくはないのに殺しに必死な自分。

毎日顔を見せてくれ自分を見てくれる人がいる。

母の為でもあるが自分がここに居たいという気持ちが溢れていた。



「泣かないでよ、そういうの、どうしていいか分からないし」



イルミは困っているのだろうがやはり声のトーンに変化は聞き取れない。

だが一流の暗殺者がこうして気持ちを言葉にしてくれるだけで嬉しくて堪らない。





神様はいない





きっとそうだ。

だから自分はこんなにも

苦しくて、嬉しくて、辛いんだ。



「…母さんかカルトでも呼ぼうか？ 心理においてはあの二人が一番操作が上手いよ」



やはりズレているイルミ。

相談や慰めを「操作」と言うなんて。


泣きつつAはクスッと笑った。

次々流れる涙を拭きながら笑った。



『逃げないで下さいよ、私の雇い主ですよね？』


「別に逃げてない。 Aが辛そうだからそれが一番だと思っただけ」


『ならイルミさんが聞いて下さい』


「俺じゃ何も出来ない」


『出来なきゃいけないなら、依頼完遂出来ない私はとっくにクビですよね？』


「……」



心を満たしてくれるのは

この人なんだと心が訴える。


目の前に居るこの人が

同じ気持ちとは限らないけれど

ここに居てほしい、そう思ってくれている。


それは依頼の為にか

イルミの気持ちなのか

聞けはしないけれど。



「…Aはもっと世間を知った方がいい」


『イルミさんがそれ言います？ かなりズレてるのイルミさんですよ』


「…ほんと分かってないよね。 ミルは例外だけど感情を出さない訓練は５歳で終わってる」


『つまり？』


「……」





コチ、コチ、

時計の秒針の音だけが響く部屋。


イルミが動いた音は全くしなかった。

しかしイルミはAのすぐ傍にいた。


今迄にない、信じられない位、近い距離に。

互いの唇が重なっていて、当然のゼロ距離。





「感情を見せなくても俺はこうしたいって思っちゃうんだから危機感持ちなよね」


『偶然ですね、私もついさっき…そう思っちゃったところです』





二度目のキスは

言葉にならない感情を交換して

お互いの心を穏やかに満たした。


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