白いキャンバス (ページ3)

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甚三紅 (赤×黒) ページ3

赤side

「玉の緒よ絶えねば絶えねながらへば忍ぶることのよわりもぞする」

先生の唇から紡がれた31音は、きらきらと光って、俺の胸に落ちてきた。

「これは平安時代から鎌倉時代にかけての女流歌人、式子内親王(しょくしないしんのう)が詠んだ歌です。新古今和歌集や小倉百人一首に入集されている、彼女の代表的な歌ですね。」

でも、こちらを見る様子は全くないで、まっすぐ前を見ている。

せっかく一番前の席を引いたのに、廊下側じゃ意味がない。

「歌意は、私の命が絶えてしまうのなら、絶えてしまうがいい。あなたを思うこの気持ちを隠すのがうまくできなくなってしまうのなら。と言うところでしょうか。」

ねえ、先生、ちょっとはこっちも見てよ。なんて、今教科書を読んでいる先生には伝わらない。

「実は、この歌には返歌がある、とも言われています。

『思ふこと空しき夢のなか空にたゆともたゆなつらき玉のを』

藤原定家(ふじわらのていか)の歌です。忍ぶことが辛くても、想うことが空しくても、どうか、消えてしまわないで。という意味ですね。

この歌は、定家の私歌集、『拾遺愚草(しゅういぐそう)』に入集された歌で、返歌なのか、はっきりしたことはわかっていません。」

和歌を書くその綺麗な文字に恋をして、先生の目の前にある黒板に嫉妬するなんて、俺も大概だ。

「式子内親王が亡くなって10年以上の時が過ぎ、定家が50歳をすぎた頃に詠まれた歌で、内親王は斎院という役職につき、恋をする事のない人生を送っていたとも言われています。」

これがもし本当の話なら、強く、素敵な恋だったのでしょう、といって締められた授業。

俺は、早く先生じゃない「北斗」に会いたくて。

「せんせ、重いの持ちます。」

なんだかんだ口実をつけて、準備室までついて行った。