ハートの国のアリス［名前固定］ (ページ7)

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ハートの国と余所者Ⅴ ページ7

長い長い歯車だらけの階段を下りて。塔の広場を抜けて、森に入りました。
　うーん、早く起きて先輩を捜さなくてはなのですが。それにあまり長すぎると兄が心配しますしねえ。もっと詳しく聞いておけばよかったです。

「ここ、どこですかね」
　いやあ、もう道なんて分かったもんじゃありません。やっぱりあの時計塔のご主人に道案内だけでも頼むべきでした！

「うーん、どこだろう。ははっ、俺もわからないよ」

「ひゃっ！」
　いつの間にか隣に赤いロングコートの男性が立っていました！
　目に痛い真っ赤なコート。鳶色の髪に満面の笑みを浮かべた男前な顔。目の色は血のような真紅。ホストだったら指名率ナンバー1になれそうな感じですね。
　こんなに濃い存在感の方、気づかないわけないのですが……。

「君も迷子？いやー、俺もなんだよね。ここ、どこだかわかんなくて」

　その男の人は胡散臭いほどに爽やかーなオーラを発散させながら髪をかきあげました。
　しかし私の目は、その人の腰に差してある大剣に釘付けでした。柄の先の部分がハートです。あまり男性が持つようなデザインのものではないと思うのですがってそんなことではなく！

「あの、それ銃刀法違反ですよ？」

「ん？ああ、俺騎士だから。あれ、もしかして君って余所者？」

「そ、そうだと思います、多分。ここに住んでいませんし」
「うーん、他に余所者がいるって聞いたことないからなー。もしかして今来たばっかり、とか？」
　爽やかーな見た目につられて、つい答えてしまいます。

「はい、そうなんです。だからこのあたりの地理が全く分からず困っていたんです」

　肩を落とす私に、そのロングコートの人は、ははっ、と笑いかけ、

「じゃあ疲れたよな？ちょっと町まで行ってジュース買ってくるよ！ちょっと待っててくれよな！」
「そ、それより道案内を…」

　自称騎士の怪しい爽やか青年は道なき道を抜けていきました。もう既に彼の姿は茂みの向こう側。
明らかに森の深いところに向かっているのですが……。それに道に迷っているとも言ってました
し……。

　帰ってくるかもしれないという一縷の可能性にかけて、三十分くらい待ちました。

　帰ってくる気配すらありません。見捨ててその場を離れようとした、その時。
　今まで明るい昼だったのが、夕方を通り越して夜に変わったのです。夕闇に三日月がうっすらと輝いています。
　まあ、夢ですからー。……私、こんなにロマンチストだったですか。