中原さんの黒帽子。【文豪ストレイドッグス】

黒帽子が七つ ページ8

丁度其の頃、中原は酔い潰れていた。


昼間にも関わらず、既に4本目となった酒の蓋を開ける。
酒の匂いが充満した部屋の中で、中原はうわああと唸りながら酒をラッパ飲みした。
酔った時にひたすら感情をぶちまける仲間は現在外に出ており、乾杯する相手も居ないまま中原は机に突っ伏した。





……首だけを横向きにし、中原は肩の力を抜く。
お分かりの通り、彼がこんな時間帯に倒れ込んでいるのは、紛れもなくAが原因だった。


中原は苦虫を噛み潰したような顔で頭を抱える。道で鉢合わせしたことに関して彼女に非がある訳ではないので、自分が不機嫌になっても仕方ないのだが、今はそうしないと心を保つ事が出来ないような気がしていた。


酔いのせいで揺れる視界の中に捉えた、床に転がる黒帽子。あの日、Aが被っていた。
上へ上へと上がってくる感情を抑え込むかのように、中原は再び酒を飲んだ。





……一週間前は本当に偶然だったのだ。
神が遊び心で作ったあみだくじが、たまたまAとの遭遇に行き着いただけ。其れくらいだ。


そんな奇跡的なくじが二回連続で当たる筈が無いのだ。


今日、中原は普段通る事の無い道を意図的に歩いた。
結果、Aとばったり会った。
事情があった訳では無い。誰かがいた訳でもない。
Aが歩いてくると分かっていて、あの道を選んだ。


自分の意思だ。





心の底で渦巻く何かを消すために、中原はまた瓶に手をかけた。

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