繋がる線 ページ29
夕方、太輔は約束どおり、いつもの時間に帰ってきた。
だけど…なんだかいつもよりも、ぐったりしている。
「おかえりなさい。…太輔、大丈夫?」
「わた」
ちょっとだけ元気のない声で呼ばれたと思ったら、オレは、太輔に抱きしめられていた。
びっくりして体を強張らせたけれど、鼻腔に沁み込んできた太輔の香りに頭がくらっとした。全身の力が抜けて、体は勝手に太輔のほうへともたれかかっていく。
「っ。…あの、たいすけ…」
戸惑いがちに名前を呼ぶと、太輔の喉が揺れて優しい吐息が漏れた。抱擁がそっと解かれていく。
密着していた時間は、ほんの数秒だった。
「…ふふ。ありがとう。かなり楽になった」
「え、オレは…何もしてないけど」
「わたの香りと体温を感じられたから元気になったんだよ。体も、精神もね」
そんな甘いセリフを甘すぎる表情で伝えてくれるものだから、オレの心臓はまたぎゅうっと締め付けられた。
恥ずかしいやら嬉しいやら、こそばゆいやらで、すごく変な心地だ。
「わた。ただいま」
「…うん。おかえりなさい」
どちらからともなく、唇をふれ合わせる。太輔の目に見つめられて、太輔の目を見つめて、心臓がどきどきと跳ねている。
「…仕事、そんなに忙しかったのか?」
「うん、少しね。久しぶりの大きな仕事があってね。行かなきゃいけない所や、やらなきゃいけない事がものすごく多かったんだよ」
「そう…」
その時、頭に浮かんだのは、今朝の速報で流れた俳優の事件だった。
麻薬取締法違反。もしあの祭舞組っていうのが太輔の組なんだとしたら…きっと今日はいろんな意味でドタバタと大変だったんじゃないだろうか。だって、自分の組に深く関わっている人が捕まっちゃったわけだし。そこからどんな情報が漏れるかも分からないし。
太輔が肉体、精神ともに疲れていても全然不思議じゃない。
「…そうなんだ、お疲れさま。すぐごはんにする?」
「うーん。そうだね…」
「それとも、今日は太輔が先にお風呂に行く?太輔、お風呂好きだろ。先にリラックスしてきたら」
「それは」
「たまには順番交代で。疲れを取ったほうが食欲も出るだろうし、オレも気持ち良くたくさん食べてくれたほうが嬉しいし」
太輔が何か言いかけたのを遮るように、言葉を続ける。
太輔は基本的に少食だから、こんなに疲れていると、食べるのもしんどいんじゃないかと心配になる。
117人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
風華(プロフ) - 沢歌さん» はじめまして!こちらこそ見つけて読んで下さって、そしてもう一度読んでいただけるなんて本当に嬉しいです…ありがとうございます…!ぜひぜひ、一度目と、真相が分かってからの二度目とを読み比べてみてください(*^^*) (2022年3月12日 20時) (レス) @page50 id: e81894f7b2 (このIDを非表示/違反報告)
沢歌(プロフ) - はじめまして!面白いお話ありがとうございました(*´꒳`*)答え合わせするために再度、最初から読んでみます! (2022年3月11日 21時) (レス) @page50 id: 0c2f370c18 (このIDを非表示/違反報告)
風華(プロフ) - mi-chanさん» 最後まで読んでくださり、ありがとうございます!そしてイチャイチャの希望もありがとうございます。時期は決まっていませんが、折角恋人同士になったので、何かのタイミングで仲良しさせてあげられたらいいなと思ってます(*^^*)気長にお待ちいただけたら嬉しいです。 (2022年3月9日 16時) (レス) id: e81894f7b2 (このIDを非表示/違反報告)
mi-chan(プロフ) - ハッピーエンドで終わって良かったです!絶体絶命のピンチでハラハラしていたので…北山さんが苦手な太輔さんも面白かったです。おまけで太輔さんと渉さんのイチャイチャなどあるといいなと思ってます(笑)ドキドキするお話をありがとうございました! (2022年3月8日 2時) (レス) @page50 id: fa52f3ba38 (このIDを非表示/違反報告)
風華(プロフ) - kumiさん» ようやく結末まで書ききることができました。楽しみだと、面白いと言っていただけて、本当に嬉しくて励みになります。ずっと二人を見守り続けてくださってありがとうございました! (2022年3月7日 13時) (レス) id: e81894f7b2 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:風華 | 作成日時:2021年12月15日 20時