点と点 ページ26
まっ暗闇の意識の端から、聞き慣れた目覚まし音が響いている。反射的に音のする方へと手を伸ばして、その瞬間に、オレの意識は現実の世界へと一気に引き上げられた。
オレの右手は目覚まし時計のてっぺんをしっかりと掴んでいて、目覚まし時計の時刻はいつもの起床時間だった。いつもの、ふかふかのベッドの上だ。
「…現実、だよな…」
一番最初に漏れたのは、そんなセリフだった。
だって、さっきまでの夢はやけに長くてハッキリとしていて、オレの頭の中にもしっかりと残ってる。
夢と現実の境目が、あやふやになりそうなぐらいに。
いつも通りキッチンに立って、コーヒーをセットして朝食を作る。ベーコンエッグとトーストをテーブルに並べたら、目を覚ました太輔が部屋から出てきた。
「おはよう。わた」
「おはよう。太輔」
オレがあいさつを返すと、太輔が優しい顔で笑う。心臓がどきっと高鳴って、それから、オレの唇も自然と笑みを結んでいた。
「よく眠れた?」
「うん。…昨日、ソファから運んでくれたんだな。ありがとう」
「どういたしまして。眠くなっても俺を待っててくれて嬉しかったよ。ありがとう」
さらりとそう返されて、また心臓がきゅっと揺れた。同時にオレの目は、太輔の右手の甲に動いた。
そこにある銃創痕は、夢の太輔が血を流していた場所とまったく同じ。
(…これは、オレを庇って、できた傷)
乾いた下唇をそっと湿らせながら、確信に変わりつつある嫌な予想に身震いする。
だけどそれは、太輔のスマホの着信音で一気にかき消された。画面を見た太輔の顔が鋭く強ばって、低い声で応答している。
オレはそのスマホを見て、心臓がとまりそうになった。
(夢の中の太輔が持ってたのと、同じ機種…!)
間違いない。見間違えたりしない。
百パーセント、同じスマホだ。
オレの喉がひゅっと微かな音をたてるのと、太輔が通話を終えたのは同時だった。
太輔はあと少しだったトーストを頬張って、慌ただしく席を立つ。
「…あの。…いってらっしゃい」
そう声をかけると、太輔の目から一瞬、力が抜けた。いつもの優しい微笑みが返ってくる。
「ありがとう。行ってくるね」
「うん。…あの。気をつけて」
「…うん。ありがとう、わた」
帰りはたぶんいつも通りだよ、って言った太輔の顔が、すっと近づいてくる。目を閉じて三秒、柔らかい唇が優しく優しく重なってきた。
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風華(プロフ) - 沢歌さん» はじめまして!こちらこそ見つけて読んで下さって、そしてもう一度読んでいただけるなんて本当に嬉しいです…ありがとうございます…!ぜひぜひ、一度目と、真相が分かってからの二度目とを読み比べてみてください(*^^*) (2022年3月12日 20時) (レス) @page50 id: e81894f7b2 (このIDを非表示/違反報告)
沢歌(プロフ) - はじめまして!面白いお話ありがとうございました(*´꒳`*)答え合わせするために再度、最初から読んでみます! (2022年3月11日 21時) (レス) @page50 id: 0c2f370c18 (このIDを非表示/違反報告)
風華(プロフ) - mi-chanさん» 最後まで読んでくださり、ありがとうございます!そしてイチャイチャの希望もありがとうございます。時期は決まっていませんが、折角恋人同士になったので、何かのタイミングで仲良しさせてあげられたらいいなと思ってます(*^^*)気長にお待ちいただけたら嬉しいです。 (2022年3月9日 16時) (レス) id: e81894f7b2 (このIDを非表示/違反報告)
mi-chan(プロフ) - ハッピーエンドで終わって良かったです!絶体絶命のピンチでハラハラしていたので…北山さんが苦手な太輔さんも面白かったです。おまけで太輔さんと渉さんのイチャイチャなどあるといいなと思ってます(笑)ドキドキするお話をありがとうございました! (2022年3月8日 2時) (レス) @page50 id: fa52f3ba38 (このIDを非表示/違反報告)
風華(プロフ) - kumiさん» ようやく結末まで書ききることができました。楽しみだと、面白いと言っていただけて、本当に嬉しくて励みになります。ずっと二人を見守り続けてくださってありがとうございました! (2022年3月7日 13時) (レス) id: e81894f7b2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:風華 | 作成日時:2021年12月15日 20時