小さな断片・2 ページ12
太輔が時おり見せる、鋭いまなざしや空気。乱暴じゃないのに人を従わせる威力を持った声、話し方。
その辺りにいる素人の若者が纏える空気じゃない。
でもきっと、これらは太輔のほんの一部の中の一部のはず。本気の太輔はきっと、ものすごく怖いんだろうなと思う。
オレと一緒に出かけられるように頑張ってると、太輔は昨日、優しい声でそう言った。
出かけられるように、っていうのは…潰し合いとか抗争とか、そっち系を頑張ってるって事、なんだろうか。こ、殺し合い…とか。
いま太輔と一緒に出かけると、オレも狙われるから出かけられないって事かな。
「…まだ、死にたくはないなあ」
自分の事は何ひとつ分からないし、自慢の記憶力だって、今のところたいした役には立ってない。できるのは、せいぜい家事ぐらい。完全に太輔のお荷物状態だ。
でも、それでも…死ぬのは嫌だ。
太輔が何もできないオレに笑いかけてくれるなら、何もできなくてもそばにいることを許してくれるなら、その間だけでもオレは生きていたい。甘えさせてもらいたい。
うん。とひとり頷いたら、少しだけ体が楽になった。
太輔は少なくとも、オレを嫌ってはいないはず。毎日の表情や言葉から、それは伝わってきてる。
たとえ彼がどんな顔を持っていたとしても、オレにとっての太輔は完璧な紳士なんだ。だから、たとえ世間からのイメージが悪い職業だとしても、そのイメージだけで太輔の事を完全な悪人だと決めつけたくはない。
手にしたハガキの「太輔」の部分を指でなぞる。
オレはわた。…わた、が付く名前か。
「なんだろうな…渡辺とか、綿貫とか色々あるよな。名前の方だったら、わたる、とか――」
首をひねりながら何気なく呟いた、その時だった。
頭の奥に、ピリッとした刺激が走った。
「っ!」
突然、視界に真っ白な雷が走った。頭が支えを失ったようにぐらぐらと揺れ始める。
頭が、割れそうなほど痛い。
「っ、痛った…!…いたい…!」
痛みはさらにどんどん酷くなって、咄嗟に両手で頭を抱えた。
その瞬間、頭の中がじわっと赤く染まる気配がした。視界がぼやけて、赤い色に染まっていく。
「…な、に…これ…」
体から、すーっと力が抜けていく。
まっ赤に染まったと感じた視界はいつしか黒一色に変わっていて、傾いたオレの頬がソファにぶつかる感触がした。
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風華(プロフ) - 沢歌さん» はじめまして!こちらこそ見つけて読んで下さって、そしてもう一度読んでいただけるなんて本当に嬉しいです…ありがとうございます…!ぜひぜひ、一度目と、真相が分かってからの二度目とを読み比べてみてください(*^^*) (2022年3月12日 20時) (レス) @page50 id: e81894f7b2 (このIDを非表示/違反報告)
沢歌(プロフ) - はじめまして!面白いお話ありがとうございました(*´꒳`*)答え合わせするために再度、最初から読んでみます! (2022年3月11日 21時) (レス) @page50 id: 0c2f370c18 (このIDを非表示/違反報告)
風華(プロフ) - mi-chanさん» 最後まで読んでくださり、ありがとうございます!そしてイチャイチャの希望もありがとうございます。時期は決まっていませんが、折角恋人同士になったので、何かのタイミングで仲良しさせてあげられたらいいなと思ってます(*^^*)気長にお待ちいただけたら嬉しいです。 (2022年3月9日 16時) (レス) id: e81894f7b2 (このIDを非表示/違反報告)
mi-chan(プロフ) - ハッピーエンドで終わって良かったです!絶体絶命のピンチでハラハラしていたので…北山さんが苦手な太輔さんも面白かったです。おまけで太輔さんと渉さんのイチャイチャなどあるといいなと思ってます(笑)ドキドキするお話をありがとうございました! (2022年3月8日 2時) (レス) @page50 id: fa52f3ba38 (このIDを非表示/違反報告)
風華(プロフ) - kumiさん» ようやく結末まで書ききることができました。楽しみだと、面白いと言っていただけて、本当に嬉しくて励みになります。ずっと二人を見守り続けてくださってありがとうございました! (2022年3月7日 13時) (レス) id: e81894f7b2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:風華 | 作成日時:2021年12月15日 20時