馴染んだ日常・2 ページ2
どこで生まれてどこで育ったのか。誰と仲が良かったのか。何人家族だったのか。それらすべてを、オレは忘れている。
自分のフルネームや生年月日ですら思い出せない状態のまま、太輔と三年間一緒に生活して…いや、養ってもらってきた。
オレの記憶のはじまりは、病院に見舞いに来てくれた太輔の微笑みからだ。
退院後そのままここ――太輔の家――へ連れてこられて、その日からずっと二人で生活してきた。外出は一度もしていないから、外の様子や流行はテレビのニュースやバラエティでしか知らない。
なぜならオレは、この部屋に閉じ込められているからだ。いわゆる、軟禁状態。
普段は優しくてオレの言うことにはほとんど反対しないのに、カーテンを開けようとしたら血相を変えて制止する。外出したいと言ったらダメと睨みつけられるのだ。
インターホンにすら出させてもらえないし、郵便物だって取りに行かせてもらえない。
まるで、世界からオレの存在を隠すかのように。
そんなオレが太輔の事をやくざだと思う理由は、太輔が倉庫のような場所でオレを片腕で抱きながら銃を構えているシーンをよく夢で見るからだ。太輔の顔つきからしてたぶん、この生活がはじまった三年前よりもほんの少し古い記憶。
そして、現実の太輔の右手の甲と右肩には…銃創痕がある。
それは映像というよりも一枚の写真を見ているような感覚で…声や動きまでは思い出せない。前後の様子もまったく分からない。記憶なのか夢なのかも、よくわからない。
オレの脳が、勝手に太輔のイメージから作り出した妄想かもしれない。
でも、昔本当にこの目で見た記憶かもしれない。
どっちが真実かは分からない。
愛人だと思う理由は、二人での生活を始めた初日、何て呼べばいいのか分からなくて
「組長さん」
って呼んだら、太輔が目をまるくしたあと苦笑して
「太輔だよ」
って頭を撫でてきたから。
否定も肯定もしなかったから、そこそこ深い関係できっと両想い状態だったんだなって解釈した。やっぱり、どこかの組長さんかそれに近い人なんだろうなって勝手に結論づけた。
…でも、その「愛人」という関係も、正解だと断言する自信はない。
太輔がオレを抱いたり、暴力を振るったりするという事が一切ないからだ。
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風華(プロフ) - 沢歌さん» はじめまして!こちらこそ見つけて読んで下さって、そしてもう一度読んでいただけるなんて本当に嬉しいです…ありがとうございます…!ぜひぜひ、一度目と、真相が分かってからの二度目とを読み比べてみてください(*^^*) (2022年3月12日 20時) (レス) @page50 id: e81894f7b2 (このIDを非表示/違反報告)
沢歌(プロフ) - はじめまして!面白いお話ありがとうございました(*´꒳`*)答え合わせするために再度、最初から読んでみます! (2022年3月11日 21時) (レス) @page50 id: 0c2f370c18 (このIDを非表示/違反報告)
風華(プロフ) - mi-chanさん» 最後まで読んでくださり、ありがとうございます!そしてイチャイチャの希望もありがとうございます。時期は決まっていませんが、折角恋人同士になったので、何かのタイミングで仲良しさせてあげられたらいいなと思ってます(*^^*)気長にお待ちいただけたら嬉しいです。 (2022年3月9日 16時) (レス) id: e81894f7b2 (このIDを非表示/違反報告)
mi-chan(プロフ) - ハッピーエンドで終わって良かったです!絶体絶命のピンチでハラハラしていたので…北山さんが苦手な太輔さんも面白かったです。おまけで太輔さんと渉さんのイチャイチャなどあるといいなと思ってます(笑)ドキドキするお話をありがとうございました! (2022年3月8日 2時) (レス) @page50 id: fa52f3ba38 (このIDを非表示/違反報告)
風華(プロフ) - kumiさん» ようやく結末まで書ききることができました。楽しみだと、面白いと言っていただけて、本当に嬉しくて励みになります。ずっと二人を見守り続けてくださってありがとうございました! (2022年3月7日 13時) (レス) id: e81894f7b2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:風華 | 作成日時:2021年12月15日 20時