エンディング3 Jun (ページ31)

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episode122 ページ31

去年の誕生日、父から贈られたプレゼントは腕時計だった

父が大病院の院長とはいえ高価なものをねだったことはなく、洋服にもそれほど関心はなかった。だがそこは母親というものだ。
母は僕が洋服に関心が無いことを気にして洋服をプレゼントしてくれていた

そういう心配をかけてはならないと高校生の時に思い、ファッション誌を読んだりジョンハンに付き添ってもらい洋服を買いに行って。

次第に洋服に興味を持てたんだと思う。人並みに。

僕がお金や地位に執着しないのは両親のおかげなんだと思う
後継ぎだからといって「特別」を特別にしなかった
多種多様な家庭の子たちと同じ学校に通わせたり、何でも買い与えないこと
それに勉強を強要しないことは僕が勉強に対して嫌悪を抱かない大きな要因となっている

だから…
父のようない人の上に立つのにふさわしい人間になれるように、そんな医者になれるように努力はしてきたつもりだ

それを叶えられる僕がこの先存在しないことが残念だ

ジス:…僕って死ぬんだな

貰ってから初めて身に着ける、まだ違和感のある左手首

IWCのポルトギーゼを身に着ける僕はまだ不熟な存在だ
高価なこの腕時計を父が僕にプレゼントした意味

プレゼントした20歳の僕がこれから十何年先、この腕時計のように価値のある人間になってほしい

いつかは言わねばならないことだが
今の僕にとってそんな勇気は持ち合わせていなかった

休日の駅構内は人で打ち集い、どうしても地下鉄のこの空気が好きではない
待ち合わせ時間に余裕を持てるよう一時間前に家を出た

もうすぐ駅に着くが彼女とは昨晩に待ち合わせの場所と時間のやりとりをして終わっている。
…これちゃんと待ち合わせ場所来てくれるんだろうか

終始得体のしれない不安がよぎり電車の中でそわそわと落ち着かなかった

♪～

人波に押し出されるように駅に降り立ち一つ溜息。
駅のホームに到着した時に腕時計を確認すると、待ち合わせの15分前。

この駅は実家の最寄の一駅前で、高校生の時に何度か利用したことがあるので見慣れた光景の中ぼーっと改札まで足を進めた

ジス:…あ。

改札を抜ける前、人混みの中に一人。
見覚えのあるシルエットと栗色のロングヘア―の女性が僕の数ｍ先を歩いていた

ジス:……Aさん。

僕が出すには知れた程の僅かな声量でその名を呼ぶ

周りの通行人は振り向きもしない
そんな中、その名の主だけは立ち止まった

「ジスさん？」